主催: 公益社団法人 日本食品科学工学会
会議名: 日本食品科学工学会第72回大会
回次: 72
開催地: 日本大学生物資源科学部 湘南キャンパス
開催日: 2025/08/27 - 2025/08/29
p. 21-
氏名(ふりがな):三木宏美(みきひろみ)略歴:2016年 日本大学歯学部歯学科卒業,学士(歯学).日本大学歯学部付属歯科病院総合診療科研修歯科医を経て2023年 総合研究大学院大学高エネルギー加速器科学研究科物質構造科学専攻修了,博士(学術).その後,日本女子大学家政学部食物学科助手,高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所量子ビーム連携研究センター博士研究員を経て2024年より特別助教.
我が国の高齢化率は2024年現在29.3%であり,過去最高となっている.また世界の国や地域と比較しても最も高い.加齢に伴い摂食嚥下障害を有する人口も増加傾向にある.在宅医療を推進する施策を受け,食事に困難を抱えていても自宅で生活する人もまた増えてきている.病院や施設では,専門のスタッフが日々の食事の準備をしてくれるが,自宅では自分あるいは介護者が準備をしなければならず,食べやすい食事を準備することは大きな負担となっている.そのため,あらかじめ食べやすく飲み込みやすく調整された市販の嚥下食,介護食に対する需要が高まってきている.この傾向は世界的なものである.日本では多くの企業が嚥下食市場に参入しており,スーパーマーケットやドラッグストアなどの身近な小売店で多種多様な調理済みの嚥下食,介護食を購入することが可能である.2023年度の日本国内の市販介護食品の市場規模はおよそ2000億円で市場の拡大傾向が続いている.日本における嚥下食,介護食の特徴としては,特別用途食品,嚥下調整食学会分類,ユニバーサルデザインフードなど,市販食品あるいは病院での調理といった目的に応じて様々なタイプの基準が制定されていることである.
嚥下食のような,これまでにない新たな形態や特性を持つ食品の研究開発にあたっては,食品の構造を分析することが重要となる.食品の構造やテクスチャーは口当たりや舌触り,のどごしといった食感だけでなく,飲み込みやすさや咀嚼嚥下のプロセスと関連している.また,食品の構造は微量栄養素に影響を与え,ある種の食感は食べ過ぎや不健康な食習慣につながる可能性があるとされる.
構造の分析にあたっては試料の画像を取得し可視化することが肝要であるものの,走査電子顕微鏡や共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて試料の画像化を行う場合には分割や凍結,染色といった侵襲的な前処置を行わなければならず,非破壊的に食品の画像を取得することは困難である.このような欠点を克服する新しい評価方法の一つとして,高分子や食品のような軽元素からなる試料の内部構造を非破壊的に画像化できる手法であるX線位相コントラストイメージング法が近年導入されてきている.X線位相コントラストイメージング法とは,X線が試料を透過する際,X線の位相がわずかにずれることを利用して画像を形成する手法である.一方,医学,産業界で用いられているX線発生装置による撮影では,一般的に吸収コントラストを用いて試料の画像を取得する.従って食品のように吸収係数が小さい,すなわち原子番号が小さい物質からなる試料の可視化は困難である.
今回,食品の内部構造を非破壊で観察可能な手法であるX線位相コントラストイメージング法ならびに嚥下食を含む市販の米飯製品を用いた実際の測定結果を紹介する.また,テクスチャープロファイルアナリシスの結果との比較および国内外での嚥下食の分類基準についても合わせて紹介する.