主催: 公益社団法人 日本食品科学工学会
会議名: 日本食品科学工学会第72回大会
回次: 72
開催地: 日本大学生物資源科学部 湘南キャンパス
開催日: 2025/08/27 - 2025/08/29
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氏名(ふりがな):関山 恭代(せきやま やすよ)略歴:1995年明治大学農学部卒,1996年-2001年東京工業大学大学院理工学研究科,2001年-2005年理化学研究所抗生物質研究室,2002年東京工業大学にて理学博士号取得,2005-2010年理化学研究所植物科研究センター,2010年独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所入所,2021年より現職(農研機構 基盤技術研究本部高度分析研究センター 上級研究員).
農産物や食品の品質,特性を評価するために,様々な化学的・物理的な分析法が用いられる.食品の分析と解釈を難しくする要因として,機器分析の立場からは次の2つが考えられる.ひとつ目は,多数の成分の複合的な効果によりそれぞれの食品に特有の味や風味が発揮されること,ふたつ目は,性状の多様性と構造の不均一性により,やはりそれぞれの食品に特有の食感が生み出されることである.改良・制御したい農産物や食品の特性をどの様に検出するかで視えるものは異なってくる.核磁気共鳴法(NMR)は,一般的には0.5~20テスラほどの磁場中に置いたサンプルに数十~数百メガヘルツの電磁波を照射することで,分子の化学構造や運動性,分子間相互作用などを明らかにする技術である.NMRは有機化学,創薬科学,材料科学など多くの研究分野で活用されており,これらに比べると食品分析への活用例は多くはないが,液体からゲル,固体まで幅広い性状のサンプルが計測可能であり,得られる信号の定量性も高いことから,食品に関わる様々な技術開発において指標となるデータを提供できる可能性がある.本講演では,我々が取り組んできたNMRメタボロミクス(作物の代謝物や食品成分をノンターゲットで一斉分析する技術)および磁気共鳴画像法(MRI,NMRイメージング,X線CTに対しNMRCTとも呼ばれることもある)による農産物・食品の分析例を紹介する.
NMRメタボロミクスでは,サンプル中の多数の成分を一斉に検出・定量する.この技術は主に創薬マーカーの探索や病態マーカーの探索に用いられてきたが,農産物や食品の品質評価にも有効である.代謝プロファイルをフィンガープリントとして利用したり,有効なマーカーが同定できればNMR装置を使わなくても酵素キットなどによる簡易法の組み合わせで定量が可能になるため,活用場面が広がる.
MRIは,磁場強度に勾配をかけることでNMR信号に空間分解能をもたせ,非破壊的にサンプル内部の断層画像を得る技術である.MRIは医療診断において実用化されているが,食品研究においても活用されている.主には水と油の分布や運動性の違いをマッピングして画像コントラストを得ることで,組織構造や物性の情報を得て食品の評価を行う事例が多い.非破壊計測であるという利点を生かし,装置の中にサンプルを入れたまま一定時間おきに撮像することで,保存中の食品の水や油の分布の変化をリアルタイムで観察することも可能である.近年では,装置の高感度化により水や油だけではなく糖やアミノ酸,有機酸などの局在を見ることも可能になってきた.
一方で,NMRやMRIで得られる情報には制限もあり,例えば検出できる核種,検出感度,試料サイズ,空間分解能,時間分解能など,測定原理や技術面での限界がある.医用画像分野では,複数のモダリティの組み合わせにより患者体内の様態を多角的に計測する試みがなされている.本講演では,NMRによる食品分析の実情も共有することで,農産物・食品を多角的に可視化するためのアイデア,連携の可能性について今後議論していくための呼び水としたい.