【講演者の紹介】
平野 高広(ひらの たかひろ)(地独)岩手県工業技術センター 醸造技術部 部長
略歴:1996年山梨大学大学院工学研究科博士前期課程修了,1998年岩手県工業技術センター入庁.2000年山梨大学大学院工学研究科博士後期課程修了.2022年より現職.
研究分野:ワイン醸造等
近年、果実の高付加価値化として国産ブドウを原料とした日本ワインが注目され、国内ワイナリーが増えるとともに主要ワイン産地等では地理的表示(GI)取得が進んでいる。岩手県の醸造用ブドウ生産量及び日本ワイン製成量は全国5~6位と比較的多く、ワイナリーは平成25年の5場から令和6年には19場まで増えた。そのため個性化・差別化ができる産地特性を反映させた特徴あるワインが求められている。岩手県は国内でも冷涼な地域であるが、本州一の県土を誇り、醸造用ブドウ産地の気象条件は地域によって大きく異なる。このことから、県内産地に適するブドウ品種及び産地特性の解明並びに全国の産地と比較した岩手県の産地特性の解明を目的に研究に取り組んだ。
県内に初導入されたブドウ品種等を原料にワインを試作し、成分分析・官能評価にて醸造適性や産地特性を評価した。その結果、①赤ワイン用品種アルモノワールや白ワイン用品種モンドブリエなどが高い醸造適性を持ち県内産地によって香味等が異なること、②県北沿岸の久慈地域産山ブドウワインが系統によって色香味が異なること、③沿岸被災地の陸前高田市産ではリースリング・リオン、アルバリーニョ等が高い醸造適性を持つことを明らかにした。また、県産ブドウの特性を活かす取組として④県産山ブドウワインの特徴香気成分が煮リンゴ様の甘い香りを持つダマセノンであることを明らかにするとともに、⑤県産ワインに適したマロラクティック発酵乳酸菌を選抜した。さらに、⑥全国各地のマスカット・ベーリーAを原料にワインを醸造・評価した結果、岩手県内産は全国と比べて赤色が濃く酸が多く特徴香気成分の一つであるフラネオールが多い等の産地特性を持つことを解明した1)。
県産ブドウの醸造試験結果を技術移転した結果、県内ワイナリーから様々なワインの商品化に至っている。特に赤ワイン用品種アルモノワール、白ワイン用品種モンドブリエは品種となる前の系統試験から実施し、品種登録後は全国でも早い時期に、それぞれ陸前高田市、紫波町に普及し、㈲神田葡萄園から赤・ロゼ、㈱紫波フルーツパークから白ワインが商品化された。また、陸前高田市ではリースリング・リオンおよびアルバリーニョのワインも商品化に至った。山ブドウについては、目的とする商品の特徴毎に使用する系統や醸造方法を変える等、㈱のだむら涼海の丘ワイナリー等の商品改善に繋げた。マスカット・ベーリーAワインの産地特性の解明では全国と岩手県内産地の特徴の違いが明らかになり、産地特性を活かした商品開発やGI取得などの県産ワインPRへの貢献が期待される。
1)「日本各地のマスカット・ベーリーAを用いた試験醸造ワインの特徴」,日本醸造協会誌、Vol.120、No.2、101-114 (2025)