日本食品科学工学会大会講演要旨集
Online ISSN : 2759-3843
第72回 (2025)
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シンポジウムB2: 生理活性を有する食品中匂い物質の分析とその興味深い機能特性研究
モデル生物線虫C. elegansで紐解く香りの機能性
*横山 壱成
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p. 32-

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抄録

【講演者の紹介】

横山 壱成(よこやま いっせい):九州大学大学院農学研究院 助教

略歴:2021年3月北里大学大学院動物資源科学専攻博士後期課程修了,同年9月まで株式会社フード・ペプタイド,2022年3月まで北里大学獣医学部特任助手,2024年3月まで日本学術振興会特別研究員PD(日本大学生物資源科学部),2025年3月まで北里大学獣医学部特任助教を経て,同年4月より九州大学大学院農学研究院助教(現在に至る)

1.食品の加熱香気とその生理的作用

 香りは我々の日常生活のさまざまな場面において存在し,生活の質を左右する.特に食品における香りは,そのおいしさを決定する重要な要因のひとつであり,我々ヒトが抱く食品への第一印象や食行動へのきっかけとなる.食品の製造工程や調理過程における加熱処理において,食品の香りは大きく変化する.この加熱による食品成分間反応の中でも,アミノ化合物と還元糖が関与するメイラード反応は,食品の品質だけでなく嗜好性向上にも高く貢献する.一方,演者らのグループはこのメイラード反応生成香気の吸入による生理的作用に注目し,その主要成分がもたらす影響についてラットやヒトにおいて報告してきた.メイラード反応生成香気は,食卓での加熱調理や加工食品から日常的に吸入することが予想され,その刺激による老化や嗅覚認知機能への影響が予想された.しかし,このような実験の評価系では,動物の飼育コストおよび実験者負担の増加,そして動物福祉の問題が懸念される.

2.小さな生物 線虫C. elegansが拓く,大きな研究の世界

 線虫Caenorhabditis elegansC. elegans)は,老化研究の代表的なモデル生物である.線虫は体長わずか1mmと小さい生物ではあるが,筋肉,神経系,消化管など哺乳動物と同様の基本的な組織を有しており,生化学や遺伝学分野に留まらず,近年では食品機能・栄養学的な分野においても活躍する.また,本モデル生物は約70%のヒトと共通する遺伝子を有していることが知られ,ヒトの疾患モデルとしての活用も期待されている.さらに,2024年にノーベル生理学・医学賞の受賞に至った「マイクロRNA」の発見は,線虫で見出された大きな成果であることは記憶に新しい.こうした線虫の特徴を活かした研究成果は,いくつかの社会実装にまで結びついている。その中でも,線虫の嗅覚に注目したヒトや伴侶動物におけるがん診断への応用は社会へ広く浸透している.演者は,この高い嗅覚機能を有する線虫をモデル生物として,メイラード反応生成香気が示す抗老化作用などの新たな機能性について評価することができないかと着想した.

3.線虫を用いたメイラード反応生成香気の機能特性解明

 香気刺激による老化への影響を線虫モデルで検討するにあたり,演者は線虫がメイラード反応生成香気に対してどのような挙動を示すかに注目した.これは香りに対する好き・嫌いといった嗜好が線虫にも存在し,誘引・忌避といった行動出力をもたらすからである.そこで,野生型の線虫を用いて,香気提示後の走化性行動について評価を行った.その結果,未加熱試料(アミノ酸と還元糖の混合溶液)に対する行動変化は認められなかったが,加熱(メイラード反応)後の試料に明らかな誘引行動を示すことが判明した.さらに,線虫における嗅覚シグナルの伝達不全を呈する変異体(odr-3)では見られないことから,この誘引行動が線虫の嗅覚シグナルを介して引き起こされていることを突き止めた.

 本講演では,ヒトだけでなく,線虫にとっても魅力的な香りであるメイラード反応生成香気の継続的な曝露による老化への影響について詳しく紹介するとともに,哺乳類との関連性についても論じる.

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