主催: 公益社団法人 日本食品科学工学会
会議名: 日本食品科学工学会第72回大会
回次: 72
開催地: 日本大学生物資源科学部 湘南キャンパス
開催日: 2025/08/27 - 2025/08/29
p. 40-
【講演者の紹介】氏名(ふりがな):中村 正(なかむら ただし)略歴:東北大学大学院農学研究科修士課程修了,帯広畜産大学 助手,Alexander von Hunboldt特別研究員,帯広畜産大学 講師を経て,現在,北海道国立大学機構 帯広畜産大学 生命・食料科学研究部門 准教授.博士(農学)
日本におけるチーズの消費量は漸増傾向にある.これにはワインブームによるテーブルチーズや,ピザやドリアをはじめ様々なチーズ料理が料理店だけでなく広く知られるようになり,一般家庭の食卓でも日常的に提供されるようになったことなどが要因として挙げられる. 北海道は数多くの農産物の生産拠点であるだけでなく主要な酪農地帯でもあり,その生乳生産量は日本全体の生産量の50%以上を占めている.北海道には大手乳業メーカーのチーズ工場のほか100戸以上のチーズ工房が各地域で様々なナチュラルチーズを製造している.近年,北海道をはじめ日本国内のチーズ工房で製造されているチーズの中には,海外のチーズコンテストでも上位入賞する製品もあり,その品質の良さは国内外に知られるところとなっている.一方,世界には1000種類以上のチーズがあり,それぞれで原料乳の種類(ウシ,ヒツジ,ヤギなど)や調製方法(殺菌,無殺菌,成分調整など),使用する微生物(乳酸菌,カビ,酵母など)の種類,発酵様式,製造工程,熟成方法などが異なっている.そのため,チーズ中にはスターターとして添加した乳酸菌だけでなく,原料乳由来の微生物(非スターター性乳酸菌など)が製品の個性につながっているものも数多く存在している.それらと比較して,日本のチーズには「個性が感じられない」といった声も聞かれるが,その要因の1つとしてチーズの製造に使用されるスターターのほとんどが海外からの輸入品であることが考えられる.そこで演者らは,2017年から「国産スターターを用いたブランドチーズ製造技術の開発 “Jチーズプロジェクト”」に参画し,北海道産食品から乳酸菌を分離・同定するとともに,チーズ製造に適した乳酸菌の選抜を行った.選抜された北海道株のうち有望株であったLacticaseibacillus paracasei OUT0010株, Lacticaseibacillus rhamnosus P-17株およびLatilactobacillus curvatus 33-5株をゴーダタイプチーズの製造試験に供し,一般成分分析,遊離アミノ酸分析,官能評価,味覚センサー試験などにより添加効果について総合的に評価した.これにより評価の最も高かったLacticaseibacillus paracasei OUT0010株の使用対象について検討するため,カマンベールタイプチーズなど他のチーズの製造試験にも供し,その効果について評価した.これらの知見をもとに,JRA畜産振興事業(2021~2023)「国産チーズ・イノベーション事業」において,チーズ工房での実証試験ならびに製品化がすすめられ,一部の製品が国内のコンテストで受賞するなどの実績をあげている.現在,これら国産チーズスターターの使用を希望するチーズ工房が多く聞かれるようになり,地方競馬全国協会の支援の下,日本乳業技術協会により,これらチーズスターターの普及に向けた様々な取り組みがなされており,本講演ではそれらを通じた知見や普及状況についても紹介する.