主催: 公益社団法人 日本食品科学工学会
会議名: 日本食品科学工学会第72回大会
回次: 72
開催地: 日本大学生物資源科学部 湘南キャンパス
開催日: 2025/08/27 - 2025/08/29
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【講演者の紹介】
石井 敦浩(いしい あつひろ):プラチナバイオ株式会社 Chief Operating Officer
略歴:米系コンサルティングファームArthur D Little Japanに新卒入社。バイオ・ヘルスケア領域をはじめ、様々な産業において、事業/研究開発戦略立案やビジネスデューデリジェンス等の業務に従事。2021年10月にプラチナバイオ株式会社に事業推進ディレクターとして入社。2022年4月からChief Operating Officerに就任。事業戦略策定、国内外での事業開発、資金調達、組織マネジメント等、経営業務に幅広く従事。
(1)データ駆動型育種「Bio Digital Transformation (バイオDX育種)」とは
バイオDX育種とは、従来の現場の経験に依存した育種方法に対し、生物のゲノム情報、表現型データ、環境データなど多様な情報を統合解析することで、優良品種の開発や育種環境の改善を効率的かつ精密に実現する手法である。近年の次世代シーケンサーをはじめとするゲノム解析技術やAI技術の進展により、膨大なデータの取得と解析が可能となり、収量、耐病性、品質などの形質を予測して選抜するバイオDX育種の研究が進められている。産業実装された例は限定的であるものの、バイオDX育種は、育種期間の短縮や開発コストの削減が可能となる上、食糧安全保障や気候変動といったグローバルな社会課題の解決に繋がるとして期待されている。また、育種対象が多様化する中で、品種ごとに最適な育種戦略を設計することも可能となる。さらに、データを介して研究機関や企業間で知見を共有・連携することで、オープンイノベーションの促進や研究開発力の底上げも期待される。バイオDX育種は、農業の高度化と持続可能な食料生産に向けた鍵となる技術であり、今後の農業・食品産業の基盤を支える重要な取り組みといえる。
(2)バイオDX育種の産業実装
プラチナバイオでは、持続可能な原料調達という社会課題の解決を目指し、企業とバイオDX育種の共創事業を進めている。食品サービス事業を展開する国内企業との共同プロジェクトでは、魚の育種に取り組んでいる。近年、気候変動や乱獲によって魚を安定的に調達することが難しくなってきており、現場の経験のみに頼った品種改良から脱却し、環境変化に対応できる育種体制を構築することが重要になってきている。このような背景を受け、対象魚種の遺伝的多様性や遺伝子機能を読み解きながら、目的の機能を有する系統の選抜や育種条件の最適化を目指している。さらに、水産業界では魚粉の高騰が喫緊の課題となっており、魚の成長を促す餌の開発への展開も今後期待される。
水産業界だけでなく、微生物培養や植物工場によるバイオものづくりの領域においてもバイオDX育種の取組を進めている。植物工場での共同研究では、植物工場で栽培条件を検討してきたものの、その要因を分析できておらず、収率の低下・バラつき、収穫時期の遅延といった課題が散見されている。異なる栽培条件における植物の遺伝子挙動のデータと、これまで植物工場で蓄積してきた形質的データを統合解析することで、起きている現象を遺伝学的に解釈し、栽培条件の最適化と植物工場の付加価値向上に繋げることを目指している。
バイオDX育種は、産業実装においては黎明期といえる。プラチナバイオは、アカデミアの先端技術が産業で実装されるように、技術提供や事業化支援から啓発活動や教育活動にも取り組んでいる。こうした取り組みを通じ、各産業におけるバイオDX育種の推進と、持続可能な原料調達をはじめとする社会課題の解決に貢献していきたいと考えている。