日本食品科学工学会大会講演要旨集
Online ISSN : 2759-3843
第72回 (2025)
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シンポジウムA1: 産官学連携シンポジウム「持続可能性を高める新たなものづくり技術」 (産官学連携委員会・一般財団法人旗影会共催 後援:農林水産省)
植物の力を生かす:遺伝子・細胞機能に基づく次世代食資源開発
*日渡 祐二
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p. 6-

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抄録

【講演者の紹介】

 日渡祐二(ひわたしゆうじ)宮城大学食産業学群教授

 略歴:2001年,総合研究大学院大学 生命科学研究科博士課程修了(博士).同年,岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所にて非常勤研究員・助教を務める.2012年,英国アベリストウィス大学にてマリー・キュリー・フェロー.2014年より宮城大学 食産業学部 准教授,2018年より現職.専門分野は,植物の細胞生理および発生進化学.植物の細胞分裂・成長・環境応答に関わる分子機構を,植物進化の観点から研究している.また,得られた知見を基盤とした植物細胞の高付加価値化にも取り組んでいる.

 植物は,人間にとって不可欠な食料資源であると同時に,社会生活においてもバイオマスとしてさまざまな恩恵をもたらしている.植物科学の進展は,植物の生理や進化を理解する自然科学としての意義に加え,植物の活用を通じて持続可能な社会の構築に貢献するという応用的な側面においても重要性を増している.近年,次世代シーケンサーなどの塩基配列解析技術の進歩により,多様な植物種のゲノム解析が進んでいる.さらに,観察・分析機器の性能化に伴い,遺伝子発現,タンパク質,代謝産物の網羅的解析や,生細胞を可視化するイメージング技術の普及によって,植物の生理応答に関わる分子機構の解明が急速に進んでいる.これらの知見を活用し,植物の高機能化を実現することで,食料の安定供給やバイオマスの増産といった社会的課題の解決につながると考えられる.

 本研究室では,植物の生理応答を制御する分子機構の理解に取り組むとともに,その成果を応用した植物の高付加価値化を目指している.本発表では,以下の2つの研究事例を紹介し,分子機構に立脚した食資源開発の可能性について議論する.

(1)海苔の増産に向けた海藻スサビノリの遺伝子・細胞解析

 紅藻スサビノリ(Pyropia yezoensis)は,アジア地域で広く食用に供されるアマノリ属の海藻であり,特に板海苔の原料として重要な水産資源である.近年,温暖化に伴う海水温の上昇により,栽培期間の短縮,収穫量の減少,品質低下が深刻化している.そこで本研究では,スサビノリの高温ストレス応答を解明するため,植物種間のゲノムワイドな遺伝子比較解析,発現変動遺伝子の網羅的解析,生細胞の動態観察を行い,高温条件下に特異的な遺伝子応答および細胞挙動を明らかにした.

(2)マメ科木本植物イナゴマメ由来の増粘多糖類の細胞工学的生産

 イナゴマメ(Ceratonia siliqua)は地中海沿岸に自生するマメ科植物であり,その種子の胚乳から得られるローカスビーンガム(主成分:ガラクトマンナン)は,食品添加物の増粘多糖類として広く利用されている.これまでイナゴマメのガラクトマンナン生合成経路に関わる遺伝子群は未解明であった.本研究ではde novoゲノムアセンブリを構築し,高精度な概要ゲノム解析と生合成酵素遺伝子の同定を行った.さらに網羅的な遺伝子発現解析により,ガラクトマンナン生合成に関わる鍵遺伝子の絞り込みに成功した.現在は,同定した遺伝子群を導入した植物細胞培養系を構築し,増粘多糖類の細胞工学的生産に取り組んでいる.

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