2016 年 40 巻 1 号 p. 209-222
本研究は、自閉症スペクトラム障害のある児童生徒3 名を対象に、漢字の書字学習において既学習課題挿入手続きの効果を検討し、その結果について行動的モメンタムの観点から考察することを目的とした。遂行時間が相対的に短い既学習課題を挿入する条件と遂行時間が相対的に長い既学習課題を挿入する条件を設定し、標的課題の達成数と逸脱行動の生起率、および単位時間あたりの平均強化率を従属変数として測定した。その結果、単位時間あたりの強化率が相対的に高くなった条件において、標的課題の達成がより促進され、また逸脱行動の生起率が少ない傾向が示された。これは、課題従事行動の反応クラスに対する強化の密度が高くなったことで、標的行動の遂行時にも課題従事行動が生起しやすくなったためであると考えられる。この結果は、既学習課題挿入手続きの機序として行動的モメンタムが関係しているという仮説を支持するものであると考えらえる。