糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
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セッションID: AS-1-8
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シンポジウム:糖尿病における心血管疾患の病態解明の現状
糖尿病と心血管疾患:「専門バカの壁」を越えた医療連携が必須
*上嶋 健治
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キーワード: 糖尿病, 循環器, 連携
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抄録

 糖尿病患者の血管病変はびまん性であり、しかも狭窄度が強く、重症病変が多い。循環器内科医は、糖尿病を背景とした心疾患患者の診療には苦慮させられる。とくにカテーテルインターベンション(PCI)においては、好適応となる病変が少なく、再狭窄の頻度も高い。Van Belleらの報告では、糖尿病症例のPCI後の再狭窄は35_%_から71_%_と通常の30%前後に比べてはるかに高率である。さらに、PCI治療による糖尿病例の生命予後は、CABG治療群よりも不良であり(BARI研究)、しかも、冠動脈内ステント留置例でも糖尿病合併例の予後は冠動脈バイパス術(CABG)に比して悪い(ARTS試験)。薬剤溶出ステントを用いてもインスリン治療群ではやはり再狭窄率が高いとされている。ランダム化比較試験では、PCIを受けた糖尿病患者の予後はCABGを受けた患者のそれに劣る。しかし、当施設の経験からは、病変形態や合併疾患などから適応症例を吟味してPCIを行えば、その予後は必ずしも悪くない。循環器専門医の資質が問われる点と考える。はじめに述べたように、糖尿病患者の血管病変はびまん性であり、しかも狭窄度が強く、重症病変が多い。糖尿病性腎症による透析患者の冠動脈硬化にはPCIやCABGが不可能な症例もまれではない。また、冠血管の異常だけでなく、動脈硬化病変の進行は動脈瘤などの大動脈疾患の原因となる。さらに、糖尿病に起因する自律神経障害は不整脈や突然死にもつながる。糖尿病患者の死因の多くは心血管疾患であることを考えると、糖尿病を診る機会の多い医師は、これらの血管病変が軽微なうちに、循環器専門医のコメントを求め、場合によっては定期的なコンサルトを行うべきであろう。逆に、虚血性心疾患を診る機会の多い医師は、危険因子としての糖尿病に注意して、場合によっては糖尿病専門医のコメントを求めるべきであろう。学会が認定する専門医として、循環器専門医は6,639名、糖尿病専門医は2,198名いるとされている。しかし、両学会の専門医を両方有する医師は86名に過ぎない(平成9年調査)。糖尿病患者の診療には、糖尿病専門医と循環器専門医の理解と協調が不可欠であり、専門性の壁を越えた相互の連携が必須と考える。

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© 2005 日本糖尿病学会
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