糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
糖尿病学の進歩プログラム・講演要旨
セッションID: CL-5
会議情報

レクチャー:糖尿病療養指導に必要な知識(1)
運動療法の基礎と実際
*押田 芳治
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

2型糖尿病の主要な病態の一つにインスリン抵抗性が知られており、随伴する高インスリン血症や一酸化窒素(NO)合成障害を通して、高血圧症、高脂血症、冠動脈硬化症が惹起されることも周知の事実である。このようなインスリン抵抗性に対して運動療法が最も有力な治療手段と言える。その根拠について、これまで我々が得た成績を中心に概説する。1, BMIとインスリン感受性は負の相関を、全身持久力の指標である最大酸素摂取量(VO2max)とインスリン感受性は正の相関を、各々示すことを認めた。すなわち、身体トレーニングを行い減量すれば、インスリン抵抗性は改善しうる。2,有酸素運動の継続は、筋の質的変化、すなわちインスリンシグナル系のIRS-1、PI-3kinase、GLUT-4の遺伝子発現や蛋白量を増大させ、インスリン感受性を亢進させた。3,無酸素運動(中高年者には時に危険)やレジスタンス運動は、筋量、筋力を増大させることで個体レベルのインスリン感受性を高めた。なお、レジスタンス運動は低負荷、高頻度のものが望ましく、たとえばダンベル、ローイング、チューブ運動などである。4,肥満2型糖尿病患者において、食事療法単独では効果がなかったが、食事・運動療法併用により、減量とともにインスリン感受性の改善を認めた。食事・運動療法併用は、選択的体脂肪の減少に有効である。5,NOは高果糖食誘発インスリン抵抗性を改善させ、NO合成酵素の阻害(LNMMAの投与)はトレーニング効果を消失させた。一方、NOは、低濃度では血管拡張効果を通して、高濃度ではGLUT-4のtranslocationにより、糖取込を増大させた。6,AMPKは、筋収縮やAICAR投与などで活性化され、筋での糖取込を刺激する。その際、インスリンやNOとは異なる経路でGLUT-4をtranslocationさせた。7,運動療法を継続させるには、本人の強い意識づけのみならず、スタッフの熱意や周囲の理解、運動可能な環境整備も重要である。 したがって、糖尿病の運動療法には有酸素運動が有効であるが、その効果が十分でない時はレジスタンス運動の併用も考慮すべきであり、運動療法の有効性の機序としてインスリンシグナル系蛋白、NO、AMPKの関与が示唆された。

著者関連情報
© 2005 日本糖尿病学会
前の記事 次の記事
feedback
Top