抄録
糖尿病患者では、虚血性心疾患やASOにおいて、血管新生の障害が認められる。また、糖尿病の動脈硬化病変は、びまん性であり高度である。従って、進行した糖尿病性血管合併症には、血管再生療法が適応となる。血管再生には、血管の元となる“種子seed”と血管が育つ“土壌(soil)”の双方が重要である。soilを良くする治療法として、血管新生因子遺伝子治療があり、現在VEGF(vascular endothelial growth factor)やHGF(hepatic growth factor)などが用いられているが、網膜症の増悪や既存動脈硬化病変の悪化も懸念されている。また、単一の増殖因子による血管再生は、再生血管の長期維持が困難であるとの指摘もある。現在、自己骨髄血移植による血管再生療法が良好な治療効果を挙げているが、これは、骨髄血球細胞の分泌する多種類のサイトカインカクテルによる血管新生の促進によるものである。我々は、多彩な生物作用を有し、副作用の少ない血管ホルモンによる血管再生療法を行っている。すなわち、心不全治療薬に使用されているナトリウム利尿ペプチドが血管再生作用を有することを動物実験により見出し、その知見をもとにASO患者にANPの低用量持続静脈内投与を行っている。現在までに8症例に投与し、7例に明らかな症状の改善とABIの上昇を認めた。
一方、seed側のアプローチとしては、幹細胞移植が考えられる。これまで循環血中の内皮前駆細胞(endothelial progenitor cells; EPC)移植による血管再生が実験動物レベルでは報告されている。しかし、体細胞由来前駆細胞は治療効果を生むだけの細胞数の確保が困難であり、均一の細胞の調製、品質の維持も問題となる。無限の増殖性と多分化能を有したES細胞(幹細胞)は、再生医学において魅力的なマテリアルである。我々は、マウスES細胞より血管を構成する内皮細胞と血管平滑筋細胞の双方に分化し、in vitroで血管を構築し得る、血管前駆細胞(vascular progenitor cells: VPC)を同定した。マウスES細胞ではVPCは、VEGF受容体Flk-1陽性細胞であった。我々は、ES細胞の血管再生医療への応用を目指し、サル、さらに最近ではヒトES細胞からのVPCの同定に成功した。更に、VPCから適度に分化させた内皮細胞の移植が治療効果を生むことを明らかにした。また、VPC由来の内皮細胞の体外での増幅に、血管拡張ホルモンであり、心不全、肺高血圧症患者に実験的に使用されているアドレノメデユリンが有効であることを見出した。今後、免疫学的拒絶解決のブレイクスルーがなされればES細胞は再生医療において重要な位置を占めるようになると考えられる。