抄録
提示する症例は46歳の女性である。母親も糖尿病、脳梗塞後遺症で静養中で患者が世話をしていた。平成11年頃に糖尿病を指摘され某総合病院に通院していた。詳細は不明だが、空腹時血糖100mg/dl程度でHbA1cも高くなかったという。高血圧症では薬物治療も受けており、一時血圧が30mmHgまで下がり急性腎不全になり入院した。その後平成13年頃から通院を中断していた。 平成16年4月陰部掻痒感があり婦人科に受診し、カンジダ症と診断された。その際尿糖を指摘され当科に紹介された。当時口渇が強くビールを多飲していた。 4月19日初診時、食後2.5時間血糖291mg/dl、HbA1c 11.5%、血圧170/110mmHg、TC 245mg/dlとコントロール不良の糖尿病、高血圧症、高脂血症があり入院治療とした。身長154cm体重66.3kg BMI27.6と肥満を認め糖尿病食1200kcalとした。コントロール不良の期間が長かったと思われ、厳格な血糖コントロールは避け、降圧薬も徐々に増量した。しかし、血圧、血糖の変動が大きく、めまい、頭痛、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛、倦怠感が繰り返し出現し、食事量が一定しなかった。 高血圧症に関しては、循環器科の専門医にコンサルトし助言を受けたものの、血圧は150~210/80~110mmHgと不安定であった。二次性高血圧を疑い諸検査を施行した。ホルモン検査でクッシング症候群は否定的であった。MIBGシンチを施行したが褐色細胞種は否定的であった。頭部、腹部CTでも下垂体腫瘍や副腎腫瘍は認めなかった。レニン活性6.2ng/ml/hrと高値であったが、ディオバンを内服中で正確な評価はできなかった。 動脈硬化の検査では、頚動脈エコーで両側CCA~Bifurcationにプラークが多発しており、PWVでも血管年齢は60歳代後半であった。トレッドミルでは虚血反応は陰性であった。 空腹時血糖は180~280mg/dl、夕食前血糖は160~240mg/dlであった。超速効型インスリンを食事量に合わせて注射した。糖尿病合併症については、網膜症、神経障害は認めなかったが、尿アルブミンが上昇していた。 入院も3ヶ月に及び、本人が強く自宅療養を希望したため、糖尿病と血圧のコントロールが不十分なまま7月14日退院した。7月29日受診予定であったが受診しないため、午前10時30分頃訪問看護ステーションの看護師が患者宅に電話したが、連絡は取れなかった。その看護師が患者宅を訪れ、自宅のトイレの前でズボンをおろしたままうつ伏せに倒れているところを発見した。すでに心肺停止状態であった。