東アジアへの視点
Online ISSN : 1348-091X
【投稿論文】中国の地域開発の進展とその課題 −長吉図と北部湾の比較−
李 聖華
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2013 年 24 巻 3 号 p. 38-48

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抄録

中国経済は現在,集積の経済により著しく経済発展を遂げた沿海部と,それに比べ比較的経済発展が遅れている中西部が共存するという,集積の経済と未開発がはっきりと分かれる空間構造が形成されている。このような経済空間構造の形成は,1980年代からの中国政府の発展戦略に基づいた政策の結果であり,国家戦略そのものであった。しかし,2007年以降沿海地域の賃金と土地価格等生産コストの高騰をきっかけに,沿海地域から中西部への生産移転が加速化された。政策的にも1999年の「西部大開発」を皮切りとする経済発展政策の継続として,中国政府は2010年8月に「中西部地区承接産業転移指導意見」(中西部地域の産業移転受け入れに関する指導意見)を公布して,産業構造調整と経済成長方式の転換を図ろうとしている(注1)。このような経済発展の現状を背景に,近年になって頻繁に地域間バランスや地域特性を考慮した地域発展計画を公表することとなり,このような政策の策定は中国政府の地域発展に関する思惑が,大きく変化したことを意味するであろう(注2)。  ところが,労働集約型製造業は現在に至るまで沿海地域に集積し,中西部地域では期待される大規模の産業移転は行われていない(李,孫,2011)。中国経済は現在集積の逆U 字型の曲線の上り段階に位置し,産業の地域集積の強化がまだ続いている(孫,許,2011)。中国経済においては,現在特定地域への集積力が分散力より強いのが現状である。中国経済の減速の兆しが明らかになる中で,新しい成長極として中西部の経済発展が注目されるのは当然のことであろう。  2008年から続々と公表された中国の地域発展計画の中には,2008 年に公表された「広西北部湾経済区発展計画」と2009年に公表された「中国図們江区域合作開発計画綱要」といった,中西部国境地域の少数民族地域に関する経済開発計画も含まれている。また,この2つの地域計画は,2011年に中国国土空間開発戦略の実施方案として発表された「主体機能区計画」で定められた国家重点開発地域における地域開発計画でもある(注3)。広西壮族自治区の北部湾地域と吉林省の長吉図地域は元々中国国内で経済発展が遅れている地域であるが,中国西南地域 と東北地域から汎北部湾地域と図們江地域への国際協力,そして国内地域経済発展を展開しようとする,それぞれの地域特性を持っている地域である(注4)。  まず,国際経済協力という面に関しては,ASEAN と北東アジア各国との経済交流を進めようという目標がある。そして国内地域開発に関しては,広西壮族自治区の北部湾地域と吉林省の長吉図地域の経済発展を図ろうとしている。北部湾地域と長吉図地域は、それぞれ汎北部湾地域と図們江地域国際経済協力における中国国内の重点開発地域である。これらの国内地域経済に関する新たな計画の発表は,従来の特定地域に対する対外開放重視政策が,現在では国内協力と国際協力の両方を重視する政策に転換したことを意味している。特に北部湾と長吉図という地域経済発展計画で定められた国内特定地域に対する経済協力への関心が強く見てとれる。そこで本稿は,「広西北部湾経済区発展計画」と「中国図們江区域合作開発計画綱要」で定められた,中国国内における北部湾地域と長吉図地域の国際協力経緯や地域経済発展現状等方面の比較を通じて,新しい地域発展計画の下での南北国境両地域の経済発展を展望する。

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© 2013 公益財団法人 アジア成長研究所
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