抄録
本研究は,台湾の代表的スタートアップ・アクセラレーターの1つである「陽明交通大学産業アクセラレーター(IAPS)」の事例研究である。IAPSは,2013年に交通大学傘下に設立された台湾初の大学付属アクセラレーターでもある(交通大学は,2021年2月に陽明交通大学となった)。IAPSはこれまでずっと政府諸部門からのスタートアップ支援計画の実施請負を主な活動内容とし,数多くのアクセラレーター・関連プログラムを手掛けてきた。その過程で,創業者・スタートアップのコミュニティーに加え,政府・公的機関,企業・業界団体,専門家・メンター,海外スタートアップ関連団体との広範な連携・パートナーシップが構築された。さらに,こうした経験・リソースの蓄積を土台に,2020-21年頃から,独自の取り組み(TX Venture Fund,IAPS Scale-Up Premium Program)を始め,政府計画実施請負中心のビジネスモデルの転換を試みている。本研究は,IAPS の詳細な事例分析を通じて,アクセラレーターのビジネスモデルの構築と変容,それを支える組織・人員とパートナーシップの開拓について深い理解を得ることを目的としている。
IAPS は大学付属でありながら,近年まで大学行政体系に正式に組み込まれることなく,その分,比較的自由な立場で,政府機関や産業界,海外諸団体との広範なパートナーシップを築いてきた。しかし,2024年に,陽明交通大学が産学連携と創業の促進のために新設した「産学共創處(Office of Industry-Academia Cocreation:OIAC)」に組み入れられた。本稿では,豊富な産業リソースを有するIAPS が,陽明交通大学による「企業家大学(Entrepreneurial University)」推進に多大な貢献をなし得ることをも明らかにしている。