抄録
コンピュータグラフィックスにおいて,自然現象のシミュレーションは重要な研究課題の一つである.本稿では,密度分布が動的に変化する雲のレンダリングに焦点を当てる.リアルな雲の表示のためには,雲内部の光の多重散乱が重要となるが,多大な計算コストがかかる点が問題となる.本稿では,この問題を解決するための事例ベースの手法を提案する.まず,前処理において,複数の密度分布の雲を生成し,多重散乱光成分を計算して記憶したデータベースを構築する.そして,レンダリング処理においては,任意の密度分布の雲に対して,このデータベースを参照することで高速に多重散乱まで考慮した輝度を算出する.提案法では,密度分布や太陽方向が変化した場合でも,データベースを参照するだけで高速に多重散乱光成分を計算できる.このとき,前処理であるデータベースを再構築する必要はない.提案法により従来法と比較して数倍から数十倍の高速化が達成されることを示す.