抄録
以上の分析結果をまとめると次のようになる。1. 宅地間口ならびに宅地面積は街区ごとにある個有の収束範囲をもつ。2. 収束性はとりわけ間口分布において顕著であり, すべての地区において間口の収束度が面積のそれを陵駕している。これまで住宅地といえばとかく面積に比重が置かれ一定規模の確保ということに関心が向けられてきたにもかかわらず, 上記の事実は既成市街地内宅地においてはその空間決定要素としての間口の重要性を示唆している。3. 間口の収束範囲は5m台が最も顕著であり, 収束の趨勢も5m台に向っている。したがって歴史的既成市街地における宅地において, 5m台の間口が最も代表的な位置を占めていることが予測される。4. 細分化の程度は, 地区の歴史的な基盤に由来するものであると同時に, 現在でも社会的階層と密接に関係している。5. 細分化の時期や発生度合はその地区の状況に応じて様々であるが, 細分化は相対的に大規模な間口-10mないしは12m以上の間口-に発生する確率が高い。そして大規模な間口が細分され, 5m台を中心とした収束範囲が形成されるに従って細分活動は停滞する。以上, 宅地間口は, 相対的絶対的に著しい収束性を示す事実から, 宅地空間決定要素としてきわめて重要な位置を占めることが明らかである。このことは, 市街地内住宅地においては, とりもなおさず立地する住宅に対しての空間規定要素となるし, 一方, 社会・経済的要因と住宅計画上の必然性がこのような収束を促した結果でもある。また宅地間口は5m台に収束する傾向ならびにその実態により, 5m台という範囲が代表的宅地間口規模であることが確認できたが, それは住宅間口に置換えれば一般的に3間(げん)に相当する。したがって, 今後, 視点を宅地から住宅に転じ, 間口3間の住宅を中心として住空間分析を進めていく必要がある。次稿では, 収束範囲である2間から4間程度の小間口住宅について平面上の物的特性(間取り, 広さ, 設備空間, 動線等)を検討することによって既成市街地内住宅における間口収束傾向の必然性を明らかにしていく予定である。