抄録
本研究は, 近代日本の都市における‘通い’の成立を, 交通, 労働, 教育の3つの観点から明らかにすることを目的としている。本研究から明治期鉄道開業直後の‘通い’は業務利用中心で, 住居と職場·学校間の移動ではなかったことが明らかとなった。さらに, 住居と職場·学校間の移動は, まず中学校や高等女学校への通学に始まり, 会社員や官吏の通勤へと拡大したことも明らかとなった。通学が通勤に先行して増加したのは, 学校の始·終業の定時性が厳密で, しかも中等教育進学者が基本的に経済力豊かな家庭に生まれ育っていたためと考えられる。一方, 工場労働者は, 拘束時間の長さや住込労働の継続により郊外居住が不可能で, しかも所得が低く, 通勤費用の捻出も困難であった。その後高等教育修了者の急増によって, 通勤を許容する労働環境が拡大し, 通勤の量的拡大が促進され, 都市への‘通い’が日常化したものと考えられる。