日本地理学会発表要旨集
2002年度日本地理学会秋季学術大会
選択された号の論文の163件中1~50を表示しています
  • 小泉 武栄, 増澤 直, 辻村 千尋, 青木 賢人
    p. 1
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    地形·地質·植生分布の関係について、高山帯ではすでに多くの成果があげられている。しかし、わが国の国土の大部分を占める山地帯の自然については、ほとんど知見が得られていない。わずかな例外ともいえる研究が、小泉·鈴木·清水(1988)による、奥多摩の三頭山における研究である。演者らは、これを参考にして、他の山岳地域でも地形、地質、植生の対応を調べてみようと考えた。その際、近年では、GISを用いて様々な解析が行われるようになっていることを踏まえ、GISを用いた解析を行うこととした。手順として、まず地質地域ごとに大森(1975)の提唱した高度分散量を計算した。そしてその結果を元に山地地域を分類し、各分類単位と植生分布との対応を調べた。また現地調査により、その対応を確かめた。講演においては、具体的な資料にも基づいて発表する。
  • 高岡 貞夫
    p. 2
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    はじめに植生のパッチ構造とエコトープの関係に触れた後、山地植生のパッチ·モザイク構造の成因を生育環境と撹乱から説明し、それらが地形·地質条件と密接に関係していることを示した。生育環境と対応して成立する環境パッチは持続的·静的に存在するのに対し、撹乱に伴って形成される撹乱パッチは一時的·動的に存在し、パッチ·モザイク構造の時空間変化を特徴づけている。この特徴を持続させるために、生態系保全を計画する際に考慮すべき点を検討した。さらに山地生態系の管理にむけての、地生態学的な研究課題を提示した。
  • 梅本 亨
    p. 3
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    地生態学的研究を日本の山地をフィールドとして行う場合に、自然地理学の一分野としての気候学が何をなすべきかを考察した。まず山地の定義から日本の山地の特色をスケールに求め、次いで山地気候に言及した。さらに日本の山地に特有の気候について説明したのち、マクロな気候の要素である台風や温帯低気圧の重要性を強調した。以上を前提として、地生態学における地因子としての気候は、地形や植生、土壌などとは異っており、地表に付属する実体を持たないことから、独立した因子と考えることも可能で、好条件下でモニタリングが可能であることを指摘した。最後に、地生態学的研究を日本の山地で展開する際に気候学に求められるのは、第1に観測データの蓄積、第2に山地に適応可能な気象モデルの応用的展開であることを主張した。尚、本発表はシンポジウムの話題提出が目的である。
  • 澤田 結基
    p. 4
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    北海道中央部の西ヌプカシヌプリ山頂部表面の岩塊斜面において斜面の縦断面方向に沿って比抵抗映像法を用いた電気探査を行った. その結果, 斜面末端部付近の谷底付近において, 厚さ約20mの高比抵抗層が見つかった. この高比抵抗層は, 抵抗値のコントラストなどから氷に富む永久凍土と解釈される. 谷底にはミズゴケ類のマット状植生がひろがり, 地下氷の分布とよい対応を示す. 然別火山群のさらに広い範囲のミズゴケマットの分布は, 地下水の流路となる斜面末端部や谷底に集中している. 然別火山群の岩塊斜面では融雪水の再結氷で地下氷が形成され, その地下氷がミズゴケ類や高山植物群落を維持していると考えられる.
  • 中村 洋介
    p. 5
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    本発表では, 登山者の過剰利用により荒廃した丹沢山地南部の大倉尾根と表尾根を取り上げる。本地域は比較的規模の大きい荒廃がみられる。発表では, 荒廃に至った過程を報告するとともに, 現在設置されている侵食防止施設の保全機能の効果について検討する。本地域の登山道侵食を航空写真により判読した。その結果面状の裸地化が1964年以前から始まっていたことが判読された。1980年代前半には面積が最大となるが, 1987年から施工された木製階段などにより面状侵食は抑えられ, 現在の裸地の分布になった。しかし, 登山道ではガリー侵食は依然として進行しており, 厚い土壌層に覆われた地域では最大で約4mのガリーが形成されている。また, 新たに施工された木製階段等についても侵食や埋積が起きている。登山道が面的に広く裸地化した場所は、尾根上の緩斜面にあり, 以前はススキ草原であった。さらに, 裸地は登山者数が多い登山道に沿って分布している。ガリー侵食が卓越する場所は, 厚い土壌層が存在する地域である。丹沢山地は東京近郊の自然公園に位置し, 通年の登山が可能であることからもレクリエーション適地として多いに利用される地域である。このような過剰とも思える利用に加えて, 草地や厚い土壌層の存在が面状侵食やガリー侵食を引き起こしたと考えられる。
  • 渡辺 悌二
    p. 6
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    ネパール東部に位置するカンチェンジュンガ自然保全地域において、エコツーリズムの導入を最終目的として、1997年に北大とトリブバン大学によって共同研究プロジェクトが開始された。このプロジェクトでは、エコツーリズムの導入に一般的に適用される社会·経済学的視点からのアプローチをとらずに、氷河·永久凍土の融解による地表面の安定性の変化から、住民·訪問者への安全性確保や動植物保全に対して提言を行うアプローチをとっている。このプロジェクトを通して、厳しい環境下におかれた山岳地域にエコツーリズムを導入するためには、自然環境分野に関する調査も不可欠であることが強調された。この結論は、山岳エコツーリズムに限らず、山岳地域の社会問題の解決に対しても有効となることが多い。欧米の研究者と比べると日本の研究者は、従来、学術的な成果をもってプロジェクトを終えることが多かったが、問題解決を目指した提言型の地生態学は、今後、より重要になり、この分野での日本人研究者の貢献が求められている。さらに、総合的なプロジェクト形態の研究実践を通して, 地生態学のレベルアップや「地生態学者人口」を増やす必要があるといえる。
  • 池田 菜穂
    p. 7
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    カンチェンジュンガ地域に位置する、グンサ谷の高山草地を対象として、その地形·植生条件、非採食状態における草本植物の生長量、その生長量に関わる気温条件について、それぞれ調査を行った。その結果、草地の種組成が多様であることや、平坦地と斜面とでは草本植物の生長量が異なることが明らかになった。代表的な放牧地に保護柵を設置し、草本植物を8月末まで非採食状態で保ったところ、その地上部分の平均重量(生重)は、平坦地で2272g/m2、斜面で380g/m2であった。この結果と気温観測結を用いて、調査地域全体の草地の生産力を推定した。また、放牧前後の草本植物の地上部現存量を調べ、放牧による草本植物の減少量を分析した。これらの結果から、牧夫たちの放牧地利用計画を分析·評価することを試みた。
  • ゴータム クリシュナ
    p. 8
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    Present paper based on experiment on examining lopping or litter-removal regime for two community-managed sal(Shorea robusta) forests of Nepal, and demonstrated users’ knowledge of various products from sal forests, and also ethnosilvicultural aspects of many species. The knowledge shown by users not only explained about the plants but also expressed importanceto their socio-cultural context. Forests under the present research showed multi-story structures, and such structures are common in most of the community forests, particularly in the mountain regions. The findings are especially useful for sustainable management of mountain forests through active participation of local users.
  • マハラジャン ケシャブ·ラル
    p. 9
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    本報告はネパールのカトマンズ盆地の山間地域における森林利用と住民厚生について研究調査した結果をまとめたものである。1990年以前における森林政策によって山地住民は森林材—マキ、飼料、木材—をうまく利用し自分たちの厚生を高めた。だが、社会的に低い地位のカミたちは他のカースト·民族の人々と同様に自分たちの厚生を高めることができなかった。1990年代後半になって森林政策の変化、とりわけグループ化された地域住民による制度的な森林利用によって全体的に地域住民の厚生が高まった。その際にも、カミは一歩遅れをとっている。その原因は、1990年以前の所有·利用権、カースト的な職業、集落の位地等があげられる。
  • 吉住 知文
    p. 10
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    植民地政府は、山地住民が過剰利用を自己規制しながら育成してきた共同体林も含め、ほとんどの森林を国有化し、科学的営林という名の商業的営林を展開しようとした。そのために採られた森林·牧地の用益権の規制政策は、牧畜民を含めた住民生活に大きな困難をもたらした。住民は請願や規制の無視などで抵抗したが、やがて他地域への逃散や、森林放火などの激しい闘争へと発展した。一方で、国有林での人工更新事業は、生態系を考慮しない商業主義のために、多くが失敗を重ねた。これらの森林·牧蓄政策は、森林の利用者と、過剰利用の規制者と、ケアー者を完全に分断するものであり、生態資源の利用文化を破壊するものであったために、成功をおさめられなかった。
  • 小林 正夫
    p. 11
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    1980年代に始まったネパールの近代化は、地形および文化上の制約から、政府が意図した国内完結型の拠点開発による地域開発が実を結ばず、丘陵部の村落では、若年男子の海外への出稼ぎを一つの軸にした生活戦略が描かれた。この場合、高レベルの収入が地域の生業の発展のための投資より、域外の地域におけるGlobalな生活戦略を目指した投資に向けられるという特徴が指摘でき、地域のコミュニティ開発を考える上での留意事項になる。
  • 小林 茂, 濱野 真二郎, 鈴木 朗, 渡部 幹次, シャルマ サシ, アチャリア ゴーパル, 白川 卓
    p. 12
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    ネパール、カトマンズ東方の中間山地に居住するタマンやバルバテ、ネワールといった民族集団は、マラリア危険地帯をサラノキ(Shorea robusta)の分布域として認識し、この高度限界(1,200m)以上の斜面に集落を立地させ、谷底のマラリア危険地帯に開発した水田には、暑熱期は昼間だけ近づいて農作業をおこない、夜は高所の集落にかえるというかたちでマラリア感染を避けてきた(文化的適応)。これに対して、谷間のマラリア危険地帯に立地する集落に居住してきた少数民族集団、ダヌワールは、生物学的にマラリアに適応してきたと予想し、検査をおこなった結果、低頻度のヘモグロビンE症、グルコース6燐酸脱水素酵素(G6PD)欠損症のほか、高頻度でα+サラセミアが検出された。他方、文化的適応をおこなってきたタマン·パルバテ·ネワールについてはα+サラセミアは低頻度であった。
  • 森本 泉
    p. 13
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    ネパールでは1950年代以降、最大のトゥーリズム資源であるヒマラヤをめぐって国際トゥーリズムが展開されてきた。1980年代になると、無計画な開発の結果、環境問題が顕在化し、国家レヴェルでの環境保全を意識した開発方針が出されるようになった。その対策の一つとして、特定の場所へのトゥーリストの集中を避けるために、これまで入域規制がかけられていたヒマラヤの各地がトゥーリストに開放され、また低地ジャングルや比較的標高の低い山間部、そして空の国際玄関であるカトマンドゥにおいてもトゥーリストを引きつけることを意図して開発が進められてきた。他方、2000年以来、ネパール国内の政情不安が激化しているのを背景に、ネパールを訪れるトゥーリスト数は低迷している。
  • 月原 敏博
    p. 14
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    本発表では, ネパールの首都カトマンズの都市部へのミルクと肉の供給状況を遡及的に探る観点からこの国の畜産業の近代化の容態を確認し, 家畜交易やミルク·肉の販売に伝統的に担ってきたカサイやムスリムの人々の活動の重要性や,ヒマラヤ山地部の畜産業の発展可能性についてその生態条件をもとに考察する. 南アジア世界では, 家畜や畜産物は生産資源や食料源という経済的意義のみならず文化的·社会的にも重要な意味合いをもつ. そのため, 南アジアの家畜や畜産業の研究は, 宗教倫理やカースト·システムに関わる家畜観や食慣習の研究, さらには生態学的な基礎研究とあわせて統合的に研究を進めることに意義があり, そうした地域研究的な地理学研究が必要であることも示す.
  • 山田 孝子
    p. 15
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    ラダック地方では、大麦·小麦の栽培を主体とする農耕と、ヤク、ゾモ(ヤクと牛の種間雑種)、牛、羊、山羊の移牧形式による牧畜は村の標高に応じて組み合わせを変えながら行われてきた。また、トランスヒマラヤ山系という寒冷で、乾燥した半砂漠地域という環境条件のもと、農耕では給水のための潅漑水路と階段状テラスの構築、牧畜では冬期間の家畜飼料の確保などが大きな問題となり、家族ごとの耕地面積と家畜頭数は社会·生態的な制約を受けてきた。一方、スリナガル—レー間の道路開通や観光の開放など1970年代中頃から進展した地域開発は、観光客の増加やさまざまな消費文化の流入をもたらし、人々の生活はとくにレーを中心として大きく変化してきた。本発表では、1990年までの現地調査を踏まえ、1978年以来続けられているNGOの活動などに触れながら、ラダックにおける農耕·牧畜生活と観光などの地域開発のはらむ問題点について報告する。
  • 中川 聡史
    p. 16
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    ポーランド, チェコ, スロバキア, ハンガリーに関して, 県レベルの人口統計, 社会経済統計を整理し, GISを利用することによって, 地域ごとの社会経済的指標の変化が, 人口指標の変化にどのように影響を及ぼしているかを検討した。分析の結果, 以下の2点が明らかになった。第1に, 出生率低下の拡散は, 地域の社会経済的状況に影響を受ける。すなわち, 均一性が高く情報伝達の速いチェコでは早い時期に, 一国同時に出生率低下が生じたが, 地域格差が大きく情報伝達が相対的に遅い国々では, 出生率低下の始まりが遅く, また一国内でも, 経済発展の進んだ地域が先に, 遅れた地域では後から低下が進行した。第2に, 各国の首都とその他の地域との人口移動は1990年代に低下/停滞の傾向がみられた。これは, 各国において首都とそれ以外の地域の間の地域経済格差が拡大している中では奇異な現象であるが, 首都での極端な住宅難が理由の一つであると考えられる。
  • ムラデク ヨゼフ
    p. 17
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    人口地理学は、様々な地域における人口の発展·規模·分布·構造·自然増減·社会増減の基本的な規則性に関心をもつ人文地理学の一分野である。人口のプロセスと構造を、他の地理的要素との相互関連の中で研究することにより重点が置かれる。人口地理学の対象とプログラムは、人口や社会の発展によってと同様、この分野独自の発展に基づき変化しうる。人口地理学は、現在、研究すべき課題を有している。
  • 加賀美 雅弘
    p. 18
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    政治改革後のハンガリーにおいて、エスニック·マイノリティは集団としてのまとまりを強化しつつある。ここでは、エスニック·マイノリティの組織化に目を向け、その地域的な分脈を、ドイツ系住民が組織する同好会を事例にして考察した。ドイツ系住民が居住する市町村に組織されている同好会としてのブラスバンド、ダンスグループおよび合唱団は、ドイツ系住民の伝統文化を保持する団体として位置づけられている。これらの活動は、ドイツ系ハンガリー人協会やメディアなどエスニック·エリートによって支持されている。その結果、ドイツ系住民は、より多くの機会を獲得し、これに関連して、彼らの居住地域は経済的な発展を遂げようとしている。
  • モイスブルガー ピーター
    p. 19
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    本研究の目的は、ハンガリーの変容プロセスの初期におけるジプシーの教育水準と雇用状況を明らかにすることにある。国勢調査における設問で自らをジプシーとした142683人が対象とされた。15歳以上のジプシーの55.2%が、初等学校の第8学年を修了していない。5.1%のみが初等学校以上の教育を修了している。初等学校を終えていないジプシーが変容プロセスの最初の10年において最も不利益を被った。ジプシーの教育水準は、居住地の規模によって異なり、性差も大きい。子の教育水準は、主として母親の教育水準の影響を受けており、周辺農村で育つ若年のジプシーの機会は、限られたものとなっている。
  • 佐々木 博
    p. 20
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    目的 社会主義崩壊以後の中東欧諸国への外国直接投資状況を投資額、投資分野、投資国、外国貿易への貢献度などの項目で分析し、国別と地域別にその特色を究明する。外国直接投資は旧社会主義諸国の経済を活性化し、資本とknow-howを導入して、国家財政の赤字を補填し、さらに輸出貿易に大きく貢献してきた。ハンガリーでは外資系企業(FIE)の輸出貢献度は89%、販売貢献度は73%、雇用貢献度は47%である。結論 外国投資で見た中東欧諸国は、EU加盟に近い先発国と未だ停滞したままの後発国に分かれており、先発国といえども、安い労賃と良質の労働力と地の利でFDIを引き付けてきたが、ウクライナなどより安価な労働力地域への西欧諸国企業のさらなる移転も予想される。
  • 小林 浩二
    p. 21
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    東欧革命から12年、中央ヨーロッパは、あらゆる面にわたって大きく変化してきた。一般的にいえば、経済的にも、「生活の質」という点からみても、中央ヨーロッパは著しい発展を遂げてきたといえよう。こうしたなかにあって、中央ヨーロッパの特色のひとつは、社会階層による格差や地域的格差が大きくなってきたことである。たとえば、社会主義時代に重要な役割を果たしていた農業や農村は、“敗者”のレッテルを貼られている。ところが、農村をつぶさにみると、そこには多様な様相が展開している。今日の農村の発展や性格は、とくにつぎの2点に規定されているといってよいだろう。1)そこに存在していた社会主義時代の農業経営体がどうなったのか。とくに、土壌などの自然条件、農業経営体責任者のマネッジメントなど。2)農業以外の雇用機会がどの程度存在しているか(農村への企業の進出状況や近隣の都市への通勤状況、観光化の進展状況など)。本報告では、この点を念頭に置いて、2つの農村を対象地域として、それらの変化を具体的に検討してみることにしたい。2つの農村とは、スロヴァキアの首都であるブラティスラヴァ周辺に位置するドゥナイスカー·ルズナDunajská Lužnáとポーランド北西部のヴェンゴルジーノWegorzynoである。
  • 呉羽 正昭
    p. 22
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    本研究の目的は, ヴィシェグラード諸国住民によるオーストリアへの宿泊を伴った旅行の地域的特徴を明らかにすることである。ヴィシェグラード諸国からオーストリアへの宿泊数は1989年の東欧改革以後急激に増加した。宿泊客の目的地は, 社会主義時代にはその大半が都市であったが, 近年では, オーストリア中央部から西部にかけてのアルプス空間が主要な目的地になった。こうした地域でのスキー観光を目的とした旅行が大半を占めるようになった。こうした観光形態の変化は, 1つにはヴィシェグラード諸国住民によるレクリエーション活動の活発化·多様化に基づく。さらには, オーストリア側が積極的に市場開拓·誘客を行ってきたことも大きく影響していると考えられる。
  • チズ テレサ
    p. 23
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    本研究は、1990年から2000年にかけてのポーランドにおける社会経済的変容の地域的側面に焦点を当てている。まず、基本的なマクロ経済上の傾向が概観された。第2に、10年間の変容後における地域格差と新しい社会経済システムへの空間的適応が示された。発展の水準上、変容の勝者·敗者が明瞭に現れたと同様、強い地域·平均的な地域、弱い地域が出現した。第3に、ポーランドの地域発展上の空間的規則性を明らかにすることを試みた。潜在人口に対する潜在収入の比率という形態をとるポテンシャル·インデックスの分布をもとに、地域的な分極化が示され、中心·周辺モデルから説明された。
  • ビチク イワン, ハンプル マルチン
    p. 24
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    旧社会主義国の変容プロセスは、近代化プロセスの一部として理解することも可能である。1990年にチェコで始まった変容プロセスは、経済社会の空間組織化に根本的な変化をもたらした。自由競争の導入により、プラハとそれ以外の諸地域との格差が極めて明瞭となってきた。また、チェコの東部と西部における変容プロセスの影響の違いもみられる。経済社会の発展上、大きな問題を抱えているのは、旧制度によって保護されていた地域であり、変容プロセスは、チェコの経済社会上の発展における地域間格差の増大に影響を及ぼしている。
  • オーベルト アンタール
    p. 25
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    ハンガリーにおいて、自由主義経済への移行期、経済発展の上での格差が拡大した。制度変化の恩恵を被ったのは、首都とハンガリー西部地域であり、敗者は東部国境地域であるといえる。ブダペスト·中央地域は、卓越した位置を占めており、格差はますます増大している。
  • マイヤー イエルク
    p. 26
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    チェコにおける社会構造の変化は、一連の空間的変容を引き起こした。過去10年の間にプラハのような大都市の人口が減少する一方、それらの周辺地域の行政体の人口が郊外化の進展により増大した。1991年までは大都市の人口が増加し、その周辺では減少するという全く異なる傾向を示していた。こうした逆転の要因として、私有財産に対する意識の変化、都市内部における地価の上昇が挙げられる。生活水準や労働市場など様々な指標を取り上げることで、人口構造や経済構造における変化を明らかにすることができる。社会の変容プロセスは、地域的差異をもたらす決定要素といえる。
  • 山本 充
    p. 27
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    1990年代、中央ヨーロッパの旧社会主義国においては、政治経済改革とともに市場経済化が進展し、この地域における都市システムは、大きな変容を被ってきた。まず、首都を始めとする大都市が経済投資の受け皿となって就業機会も増大し、大都市郊外の小都市や農村が、新たな人口の受け皿となり、大都市圏が形成されてきた。投資が、大都市とりわけ首都に集中する結果、それぞれの国の中で、首都が卓越した地位を獲得する傾向にある。国境を越えた局地的な都市間結合も形成されつつある。EU統合の深化と拡大、そして経済のグローバリゼーションの進展の中で、中央ヨーロッパの旧社会主義国の諸都市は、西ヨーロッパ諸都市との関係を密にしてきた。航空、道路、鉄道といった交通ネットワークの改善や情報ネットワークの構築を通して、上述のような変化はさらに加速化され、都市間格差ひいては地域間格差も拡大すると想定される。
  • 佐々木 リディア
    p. 28
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    中東欧の旧社会主義国の変化プロセスには多くの共通点がみられる。これらの国々では、過去10年の間に、土地の私有化にともなってダイナミックな土地利用変化がもたらされた。こうした土地利用変化を引き起こすドライビング·フォースとして、農業部門の改革、農業政策、EU共通農業政策への移行、郊外化の進展、富裕層の形成とライフスタイルの変化、地域計画における市当局の役割の増大などが挙げられる。
  • 外川 健一
    p. 29
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    最近「循環型社会」という用語が、政府·マスコミを中心に用いられるようになっている。廃棄物問題が社会的に深刻化する中で、政策的にいかにこの問題と対峙していくべきか、あるべき方向性を示した政府のスローガンの1つであると思われる。ところで経済地理学の立場からみると、いわゆる物質「循環」の空間的スケールとして、どの程度の大きさのものが想定されているのか、という分析視角に行き着く。これまで廃棄物行政は、基本的には地方自治体の管轄であった。しかし、中間処理施設や最終処分場の立地難という政策課題は、行政に重い負担となってきた。このような社会背景の下、少しでも低コストでの処理·リサイクルを求めて、廃棄物·副産物の広域移動が、県境を越えて、場合によっては国境を越えて一層顕著に観察されるようになった。その具体的な様相とそれを成立させるメカニズムの解明が、経済地理学の大きな課題として存在する。
  • 伊藤 達也
    p. 30
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
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    長良川河口堰は1995年から本格運用が開始されたが、現在に至るまで開発水の使用見通しがほとんど立っていない。河口堰事業に反対する住民は愛知県、三重県知事を相手に、一般会計から工業用水道特別会計への支出は違法であるとする支出差止訴訟を名古屋地裁、津地裁に提訴した。しかし、津地裁は門前払い、名古屋地裁は支出の妥当性を認める判決を下したため、原告は名古屋高裁に控訴、さらに、最高裁に上告している。裁判を通じて、これまで長良川河口堰事業の抱える問題点は、何一つ明らかになっていない。法廷の場で被告、原告が自らの正当性を主張する場は一度も設定されず、裁判官は法定の場での審理を避けている。発表ではこうした問題における、科学性、客観性の捉え方、研究者の関わり方について報告する。
  • 木本 浩一
    p. 31
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    1990年代後から、公共事業の見直しが始まった。全体的に少数だとは言え、当該地域にとっては一大事業の中止を意味し、ポスト公共事業を視野に入れた地域像の構築が求められている。但し、こうした趨勢はいわば「上から」のものであって、推進、反対を問わず、それまでの住民運動がそのまま将来の地域づくりにつながるとは限らない。本発表では、公共事業が止まった中部ダム(鳥取県)、温泉津町(島根県)を事例として、理論および実践の両側面から、地理学的な論点をいくつか提示したい。理論的には、近年の「社会」運動論の議論を踏まえた上で「住民」運動論の可能性について、実践的には、「学」として「学者」としていかに運動と関わるかについて検討する。
  • 淺野 敏久
    p. 32
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    報告は「環境問題への地理学的アプローチ」というテーマのシンポジウムにおける報告である。発表者はこれまで環境運動を研究対象としてきたので、本報告においても環境運動に焦点を絞った。シンポジウムでは地理学研究が環境問題解決の社会的実践にいかに関わりうるのかが検討課題のひとつであり、これを発表者の関心に引き寄せて理解すれば、環境運動の地理学的研究がどのような社会的な意義を持ちうるのかを検討することになる。報告では、自らの経験を反省する中から、環境運動を地理学的に研究する意義や地理学的アプローチの利点、ならびに問題·課題について意見を述べ、シンポジウムにおける話題提供とした。
  • 山本 佳世子
    p. 33
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    本稿では、近年のわが国における地域環境問題への取り組みの現状を踏まえ、琵琶湖地域を事例として、主に以下の3点で環境問題解決のために地理学の果たすべき役割について論じた。(1)環境問題のように、広範囲に及ぶうえ複合的要素が絡み合った問題を対象と最適の研究分野である。(2)地図を利用した研究手法を生かして、地域に関わる各主体間での環境情報の共有化を支援することが可能である。(3)フィールドワークを得意とする研究者が多いため、地域について豊富な知識を身につけているだけではなく、地域に溶け込み、住民や行政の方々とパートナーシップを築くことができる研究者が多いと考えられる。
  • 島津 弘
    p. 34
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    山岳観光地である上高地では, 河川工事などが自然環境に深刻な打撃を与えている. 自然史研究から自然保護問題にアプローチしようと設立された上高地自然史研究会の研究成果と活動を通して, 地理学研究と自然保護問題との関わりについて考えた. 研究会では, 自然地理学のほか生態学, 地質学などの研究者も加わり, 研究集会や共同調査の実施, ニューズレターや研究調査報告書の発行, 一般を対象とした講演会の開催, パンフレットの作成, 山岳雑誌への寄稿や取材協力を行ってきた. 研究により上高地の自然システムやその弱点, 工事の影響などが明らかにされ, それに基づく提言も行ってきた. しかし, 工事の中止や実施方法の変更などへの実効は上がっていない. 研究集団が保護問題に有効に関わる方法を見つけだすことが課題である.
  • 中西 僚太郎
    p. 35
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    本報告は明治農法と通称される農業技術、なかでも近代的短床犂を用いた田地における牛馬耕が、明治大正期の関東地方でどのように普及したかを検討したものである。明治後期の関東地方では、府県別にみると牛馬耕の普及率に大きな地域差が認められる。とくに群馬、栃木、埼玉の普及率が高率であるのに対して、茨城は非常に低率である。これらの地域差形成においては、近世以降における牛馬耕の伝統の有無や湿田比率などの諸要因が重要であるが、新技術導入にあたっての勧農政策の違いも影響していると考えられる。また、茨城県のなかでも牛馬耕比率には差異がみられるが、それには明治中後期における篤農層や農会の活動が影響していると考えられる。
  • 椿 真智子
    p. 36
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    日本の初期近代化は、欧米の技術や知識を日本の風土へ適用する形で進行したが、日本と欧米の風土の差異や技術の未熟さ、資金の限界、市場の未発達などの要因から挫折することも多かった。しかし北海道や内地のフロンティアにおいては、欧米式農業や牧畜が意欲的に採用され、旧来の農村景観とは異なる近代的景観が出現した。本報告では千葉県に開設された御料牧場を事例に、その景観や経営の近代性とあわせて、鉄道の発達や行楽圏の拡大とともに御料牧場が新たな桜の名所·行楽地として位置づけられてゆく過程に注目した。さらに近代的牧場景観に対する同時代の人々の眼差しを、三里塚にて後半生を送った文人の作品から検討した。御料牧場の非日本的·牧歌的景観は、人々の新たな風景に対する認識を生みだしたと考えられる。
  • 関戸 明子
    p. 37
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    本報告の目的は、大正·昭和初期の観光旅行の興隆の中で、群馬県の温泉地がどのように近代化したのか、鉄道省編纂のガイドブック『温泉案内』をもとに考察することにある。『温泉案内』の初版は1920年発行で、1927年、1931年、1940年に改訂新版が出されている。考察結果は次のとおりである。交通手段の改善にともなって『温泉案内』に採録された温泉地は増加した。群馬県では1920年の11カ所から1940年には47カ所となった。1931年版からは温泉地の特色や効能の分類に工夫がみられ、療養に関する情報に、避暑·スキーといった行楽的要素が加わった。温泉地を訪れる目的は、湯治から行楽へと移行していった。温泉地のなかには、木賃宿と共同浴場を利用する湯治場から内湯を備えた旅館のある近代的なリゾートへと発達したものもあった。
  • 川崎 俊郎
    p. 38
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    本報告は, 明治30年代から昭和初期を対象期間として, 地方銀行と産業組合の資金面での分業関係と営業基盤をめぐる相互補完の関係を長野県東信地域を事例地域として, その存立基盤や地域の問題と関連させて解明することを目的とした。その結果, 地方銀行と産業組合の間に局地的な資金循環が行われることで, 相互の経営が成立し, 地域の養蚕業や小規模な製糸業などの産業活動が維持されていた。その一方で銀行経営や産業組合の運営をした人物が重複する事例も多く, 地方銀行と産業組合は, 競合関係よりも, 制度や政策上の変化に対応して, 相互補完的に機能しようとする面が強かったことが明らかになった。
  • 天野 宏司
    p. 39
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    昭和2∼3年にかけ, 富山県内最大手の電気事業者, 富山電気(株)に対し, 電気料金引き下げを要求する電気争議が発生した。需要者側は電力料金の供託による不払い運動を全県下で展開し, これに対し富山電気(株)側は運動の中心人物に対し, 配電線を切断して供給を停止した結果, 全町村を挙げて電球返納·不買運動へと激化していく。この事態に際し, 地元町村自治体はランプの購入代金を補助するほか, 自治体経営による公営電気事業の設立を指向する。最終的に富山電気争議は知事の調停により収束するが, 解決後に富山県自身が発電事業のみを行っていた県営電気事業へ県下の電気事業者を統合しようとしていく。富山電気争議をきっかけとし, 全国的に電気争議が発生するが, 大正末から昭和初頭にかけ, 電気事業者が合併により企業数を減じている一方で公営電気事業は増加していった。背景として電灯争議をきっかけとした公営化を要因の一つと位置づける。
  • 河原 典史
    p. 40
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    日本における漁業の近代化について歴史地理学的アプローチを試みる場合、漁場の拡大や、それを促した技術革新、その結果生じた流通構造の変化などが考察されてきた。新たな漁業種類の発生·発達による労働市場の再編、例えば漁業出稼ぎ者の受容·輩出や、さらには通魚やその後の移住漁村の形成についても、研究がなされてきた。しかし、漁業をとりまく経済活動は単なる漁撈にとどまらず、水産加工業では食用品だけではなく、工用·薬用品の生産にも関わるため、かつては軍需産業の一環として発展したことも看過できない。すなわち、日本の近代漁業を国家体制から捉え直す作業が求められるのである。本報告では、日本統治時代の済州島において日本人が関わった水産加工業を取り上げ、その歴史的背景を地理学から検討した。
  • 品田 光春
    p. 41
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    本研究では, 近代における鉱業資本の生成とその地域的展開の過程で、鉱業権(鉱区所有)を媒介とした鉱業地域の形成と変容について、明治·大正期の新潟県の油田開発を事例に検討した。資料は『鉱区一覧』を用いて、鉱区の分布とその所有関係の歴史的変遷を考察した。明治後期における油田開発に伴う石油鉱業地域の空間的展開は、石油会社本社の集積する長岡市を中心に、基本的に新潟県内で完結していた。しかし大正期になると、石油会社本社(管理部門の東京流出)や「県外」採掘業者の参入によって、東京を中心に展開した広域的な鉱業地域構造の一部分に再編されたと考えられる。
  • 三木 理史
    p. 42
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は, 近代日本の都市における‘通い’の成立を, 交通, 労働, 教育の3つの観点から明らかにすることを目的としている。本研究から明治期鉄道開業直後の‘通い’は業務利用中心で, 住居と職場·学校間の移動ではなかったことが明らかとなった。さらに, 住居と職場·学校間の移動は, まず中学校や高等女学校への通学に始まり, 会社員や官吏の通勤へと拡大したことも明らかとなった。通学が通勤に先行して増加したのは, 学校の始·終業の定時性が厳密で, しかも中等教育進学者が基本的に経済力豊かな家庭に生まれ育っていたためと考えられる。一方, 工場労働者は, 拘束時間の長さや住込労働の継続により郊外居住が不可能で, しかも所得が低く, 通勤費用の捻出も困難であった。その後高等教育修了者の急増によって, 通勤を許容する労働環境が拡大し, 通勤の量的拡大が促進され, 都市への‘通い’が日常化したものと考えられる。
  • 岡島 建
    p. 43
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    都市内水運が発達する大正期から昭和初期は、主要都市において都市計画法の適用を受けた都市計画事業が進められた時期でもあった。この近代後期の都市計画の中に運河計画が位置づけられた都市として、東京·大阪·名古屋·横浜·川崎·尼崎·新潟·富山などが挙げられる。それらは都市の周縁、近郊地帯の工業地域開発を目的とする場合が大部分である。特に大阪では大規模な運河網計画が立てられ、名古屋·尼崎·富山·川崎でも運河地帯の建設が目指された。運河建設が実現し実際に利用されたのは、大阪·名古屋·富山など数少ないが、運河計画が具体化したということは、当時の政府·地域社会が積極的に意志決定をしたと評価されるものと考えられる。
  • 河野 敬一
    p. 44
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は、商業機能に特化した地方都市が、近代移行期においてどのようなメカニズムで変容してきたのかという課題を解明するために、長野県小諸を事例に、商業都市の「要素」として重視すべき商家の同族的経営展開の変化からアプローチを試みたものである。小諸の柳田同族団は、明治初期以降78店に及ぶ暖簾分けによる同族商店を輩出し、小諸本店を頂点とした合理的な経営システムを構築し商圏を拡大した。しかし、昭和初期以降、小諸本店の別家支援力や同族団の紐帯の弱体化を示す出来事が相次いで起こった。こうした同族的商業展開の変質を、地域の変容と関連させて考察すると、鉄道交通の普及による長野県の交通·物流ルートの変化や全国的な流通システムの再編成などの動きの中で、小諸の卸売商業都市としての立地の優位性が低下したこと、同族組織の維持を優先し外資の導入や新しいシステムへの対応が遅れたことなどが指摘できる。
  • 山根 拓
    p. 45
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    本研究は, 19世紀後半以降に展開した近代日本の地域形成過程を, 構造化理論に依拠した「人間主体—社会構造」の相互依存的枠組を通じて説明しようとした, 歴史地理学的な試みである。特に人間主体の地域形成への関与の問題は, 従来の歴史地誌学的な実証研究において十分に検討されてきたとは言い難い。そこで, 本研究ではプレッドが以前にボストンの事例研究で用いた個人誌的アプローチを援用し, 近代期の港湾都市·長崎の地域形成を, 同時期に当地で活躍した人物の個人誌形成と重ね合わせて理解することを目指した。複数の重要人物の人生と空間的履歴が把握され, 長崎の地域形成史と比較された。その中で, 人間主体の行為が同時期の地域の構造の影響を受ける一方, 行為の経験が人間主体の実践を通じて地域の構造に影響を与えるという, 構造の二重性を確認した。
  • 美谷 薫
    p. 46
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    近年の地方分権推進や地方行財政改革の流れのなかで, 市町村合併をめぐる議論が各地で活発化している. 合併に関する都道府県の支援策や協議の進展状況にはかなりの地域差が存在するが, 2002年5月の総務省の報告によれば, 全国の約7割の市町村が何らかの形で合併に関する検討を公式に行っており, 今後, 全国的に大規模な市町村の再編成が進展することが予想される. 本報告では, 第2次世界大戦後の市町村の再編成課程を整理するとともに, 現在進行しつつある全国的な市町村合併の流れ, いわゆる「平成の大合併」に向けての動向についても検討を加える.
  • 栗島 英明
    p. 47
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    一般廃棄物は自区内処理が原則であるが, 実際には広域行政組織や民間業者に処理を委託する例も多く, 自区内処理原則は, 事実上守られていない。本報告は, 東京都, 埼玉県, 長野県を事例に一般廃棄物の広域処理と近年の処理圏の再編について比較検討したものである。広域処理の実態は3都県で大きく異なっており, これは地域条件に大きく左右されている。また, 近年の処理圏の再編についても, 3都県で差異が見られる。こうした処理圏の広域的な再編は様々な問題をもたらしており, こうした問題に地理学がどのように関与するかが今後の課題である。
  • 水岡 不二雄
    p. 48
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
  • 大澤 善信
    p. 49
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
  • 石山 徳子
    p. 50
    発行日: 2002年
    公開日: 2003/02/25
    会議録・要旨集 フリー
    本発表は、昨年9月11日のテロ事件以降、米国の批判地理学研究者が行ってきた問題提起について紹介し、さらに日本の地理学研究からの発信の可能性を探る。事件後、米国政治は保守化の一途をたどり、メディアもその動きを擁護してきた。こうした政治、及び社会情勢を受け、米国アカデミアにおいては、連邦政府による外交政策に対して異議を唱えることが困難である。しかしその一方で、革新的な思想を持つ研究者や学生が反戦運動を進めてきたのも事実である。テロ事件に象徴されるように、グローバル化がもたらす国際経済の不均衡は、今も深刻な問題を引き起こしている。この一年、批判地理学研究者たちの役割はますます重要になっている。
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