日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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岡山県における棚田保全事業の現状と展望
*金 木斗 哲丁 致榮
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p. 10

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抄録
1.岡山県における棚田保全事業の展開岡山県は県南の一部を除く県土の7割以上が中山間地域に属し、県中央部に広がる吉備高原は、新潟県の南西部、阿蘇・九重の火山山麓などとともに全国有数の棚田地域とされている。農水省の調査によれば、県内水田面積のおよそ21%に当たる約1万3,500haが棚田であり、新潟県に次ぐ全国第2位の棚田面積を有している。岡山県の棚田保全事業は比較的早くから実施され、「美しい村づくり推進事業(1988_-_1993年)」をはじめ、「棚田天然米育成事業(1992・1995年)」、「棚田地域営農条件整備事業(1993_-_1999年)」などの棚田保全と直接的に関連する様々な事業が県独自に試みられた。そのうち、本研究の分析対象である「棚田天然米育成事業」と「棚田地域営農条件整備事業」の概要は以下の通りである。まず、この事業の目的は、棚田保全を進めることにより、農家所得の向上と地域の活性化を図ることに置かれていた。事業地区の選定に当たっては、_丸1_おおむね5ha以上のまとまりのある棚田、_丸2_園場整備をしていない棚田、_丸3_美しい棚田景観を形成している地域、または今後整備することによって景観が保持される地区といった要件に合致した14市町村19地区が候補として選定され、さらにその中から景観の美しさと地元の保存意欲の高い7町7地区が事業対象地として指定された。事業の主体はおもに集落を単位とする営農集団であったが、老人会、婦人会等の集落内の組織とともに、町、農業改良普及センター、農協、都市の消費者グループ等の協力と支援のもとに事業が行われた。事業の内容は、必須事業とメニュー事業とに区分され、必須事業には市町村および地元の保存組織の育成が、またメニュー事業には景観に配慮した基盤整備、農作業の省力化機械施設整備、定住環境整備、都市との交流施設整備、都市との交流促進事業などが含まれていた。したがって、地区ごとに選択したメニュー事業によって事業内容には多少ばらつきがあったが、耕作道・水路等基盤整備、省力化機械の導入、田植え・稲刈りの体験などの都市との交流活動が主であった。2.岡山県における棚田保全事業の評価一久米南町北庄地区を事例に久米南町北庄地区は、岡山県のほぼ中央にある久米南町の最北端に位置し、標高300_-_400mの扇状に山間棚田が開けている地域である。北庄中央集落を中心として24戸で構成された「北庄中央棚田天然米生産組合」が主体となり、1994年から1999年まで棚田保全事業が行なわれた。主な事業内容は、ソフト事業として栽培技術講習会等の保全組織の育成、小学生の田植え・稲刈り体験行事、棚田まつり・収穫感謝祭等の都市との交流活動、ハード事業としては耕作道と水路の整備、省力化のための農業機械の導入、そして苗や堆肥の購入等で構成された。事業費の内訳をみると、ハード事業の割合が約8割で、ソフト事業は約2割であった。また、この地区では有機肥料による土作り、天日架干しを利用する栽培方法で低農薬米を生産し、農協を通じて販売している。 北庄地区における保全事業の成果としては、所有者の高齢化にもかかわらず、耕作地面積がほとんど減少していないことや棚田での営農意欲が高まっていることが挙げられるが、何よりも組合活動を通じて集落が一つにまとまるとともに、元気を取り戻したことであろう。こうした北庄地区の棚田保全事業の成功要因としては、事業地区選定の適合性、組織(組合)の構成とリーダーの役割、事業内容と地域特性との符合性、事業内容におけるハード面とソフト面との適切な配分、住民の積極的な参加、既存組織及び機関との有機的な協力などが重要であった。
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© 2003 公益社団法人 日本地理学会
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