抄録
1 問題の所在 周知の通り,世界最大のウナギ・マーケットである日本において,その消費量の大部分は中国産・台湾産を主軸とする輸入ウナギによってまかなわれている.ウナギがセーフガード発動の予備調査品目とされたことからも分かるように,国内の養殖ウナギ産地(以下,養鰻産地)の動揺は著しく,業界内でも産地システムの改編が要請されてきた.こうした状況下でも成長をみせてきた養鰻産地の例として鹿児島県大隅地区を選定し(図1),水産養殖業地域の持続的発展のしくみという一般的課題(Ito(2001)のいう産地システムの自律性・安定度・回復力)に関する知見を得ることが,本研究の目的である.具体的には,(1)事例産地で開発され普及した養殖技術の普及過程の復元,(2)個別経営調査にもとづく事例産地のウナギ量産力の評価,(3)ウナギ産業関連部門の集積からみた産地組織の分析により,上述の課題への接近を図る.2 大隅式養鰻の普及プロセス 農業地域については,産地リーダーに着目した研究(堤,1995)や,産地における新しい技術の普及に着目した研究(林,1994)が蓄積されてきた.しかし,このような観点から水産養殖業地域を捉えた研究は,井村(1989)の他には進んでいない.事例産地では,進取的な産地リーダーが存在し,それをもとに他産地に類をみない資本多投型かつ集約的な生産方式を採用する生産者グループが結成されている.ここでは,その生産者グループの結成プロセスを復元していく.3 個別経営にみる事例産地のウナギ量産力 2で述べたように,事例産地では資本多投型で集約的な養鰻経営が多くみられるが,それはウナギ(活鰻)量産力の基礎をなすものである.個別経営レベルで確認される高位平準化した養殖技術は,1経営体当たりの販売金額や施設面積に反映されている(表1).それによって,新興産地である事例産地は,短期間で国内最大産地・愛知県一色地区と肩を並べる大産地に成長した.4 ウナギ産業関連部門の集積 事例産地のもうひとつの特徴は,国内有数のウナギ生産地であり,なおかつ,国内有数の加工ウナギ生産地であることである.これは,他産地に比べ大規模な加工場が事例産地内に集積したことで実現されたといえ,また,加工原料となるウナギ量産力を支えるものとして,産地問屋や飼料会社の集積も見逃せない.これに対し,前述の愛知県一色地区は産地加工の面で,加えて,国内随一のブランドをもつ静岡県浜名湖周辺地区はウナギ量産力の面で弱点をもち,その両側面を満たした産地ではない.5 まとめ 本研究で明らかとなった事例産地の発展のしくみからは,水産養殖業地域の持続的発展に関わる要素を導き出すことができる.すなわち,ひとつは新しい技術が地域に定着すること,もうひとつは水産物のフードシステムと産地を連結するチャネルとしての関連部門の集積することであると考えられる.文 献井村博宣 1989. 那賀川平野におけるアユ養殖地域の分化とその要因,地理学評論62:615-636.堤 研二 1995. 産業近代化とエージェント-近代の八女地方における茶業を事例として-,経済地理学年報41:171-19.林 秀司 1994. 栃木県におけるイチゴの新品種「女峰」の普及過程,地理学評論67:619-637.Ito, T. 2001. Self-sustained Evolution System of Agriculture from the Japanese Urban Fringe Experience,Kim,K.,Bowler,I. and Bryant,C.(eds) "Developing Sustainable Rural Systems"PNU Press,pp.305-316.
