理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-O-20
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一般口述発表
膝半月板被覆部の軟骨・骨複合体は構造的に脆弱である
飯島 弘貴青山 朋樹伊藤 明良太治野 純一張 項凱長井 桃子山口 将希広瀬 太希井上 大輔秋山 治彦黒木 裕士
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抄録

【はじめに、目的】変形性膝関節症の病態は未解明だが,発症・増悪因子として過度なメカニカルストレスが注目されている.正常な膝関節では半月板の非被覆部軟骨が荷重部位の大半を占めると考えられているが,ACL断裂や半月板切除等の関節構造の破綻が生じると関節面の接触部位が変化するとされ,半月板被覆部軟骨にも大きなメカニカルストレスが加わることが予想される.半月板被覆部軟骨が構造的に脆弱ならば,より容易に軟骨変性に至ると考えられるが,これまで軟骨や軟骨下骨の部位別の特性を詳細に比較した報告は少なく未解明な部分が多い.本研究の目的は半月板被覆部(covered area),非被覆部(uncovered area)の軟骨・骨特性の違いを力学的指標,組織染色,骨密度の観点から比較することである.【方法】商業用目的で販売されている豚の5 膝関節を対象とした.屠殺後1 日以内に膝関節を切開し脛骨関節面を露出させた後,内外側の脛骨関節面のuncovered areaから1 箇所,covered areaから3 箇所から6mm径のバイオプシーパンチを用いて軟骨プラグを2 つずつ採取し,厚さ2mmに調節した.内外側の各領域から採取した一方のプラグ計8 個は実体顕微鏡で各プラグの軟骨厚を4 側面で測定したものを平均軟骨厚とした.その後,その軟骨プラグに対して万能試験機(SHIMADZU,AUTOGRAPH)を用いて圧縮試験を行った.試験は0.01Nの負荷を10 分間与えた後,1um/sの速度で全長の20%まで圧縮を加えた.解析領域はpeak stress,peak stressからpeak stressの37%まで応力が低下するまでの所要時間とした.各領域から採取したもう一方のプラグ計8 個は4%PFAで固定した後,マイクロフォーカスX線CTシステム(SHIMADZU, CT solve)を用いて撮影した.各領域から得られた2 次元の画像データを画像解析ソフト(VISAGE, Amira5.4)を用いて骨密度(BV/TV)を算出した.解析する領域は骨軟骨移行部から遠位1mmを始めとして遠位200umの領域に限定した.その後,一定の手順に従いパラフィン標本を作製し,各領域のパラフィン切片からフーリエ変換赤外分光分析法(JASCO, 赤外顕微鏡IRT-5000 付きFTIR4100)を用いてコラーゲン量と相関があるとされるAmideI領域の積分値を求め,表層から骨軟骨移行部を20%ずつ区分して層別にコラーゲンの量を算出した.隣接した切片からはサフラニンO染色,ピクロシリウスレッド染色を行った.ピクロシリウスレッド染色は染色後に偏光顕微鏡にてコラーゲン線維の配向性を観察した.統計学的処理は2 群間で対応のないT検定を行った.【倫理的配慮、説明と同意】本研究で用いた豚は食肉処理業者によって屠殺され,食用に販売されている後肢を購入して実験で使用したため,所属大学の動物実験委員会の承認が必要な研究には当たらない.しかし,取り扱いには十分注意し,実験後にはオートクレーブで確実に加熱処理した後に処分した.【結果】平均軟骨厚はuncovered areaの内側 1.18mm,外側1.02mm,covered areaの内側 0.68mm,外側0.69mmであり内外側ともに2群間に差を認めた(P<0.01).圧縮試験の結果,peak stressは内外側ともにcovered areaで高値であり(P<0.05),peak stressの37%まで応力緩和が生じる所要時間はcovered areaで短かった(P<0.01).BV/TVは内側のuncovered area で47.6 %,covered areaで39.6%,外側のuncovered areaで 43.1%,covered areaで36.0%であり,内外側いずれも2 群間に差を認めた(P<0.05).サフラニンO染色はuncovered areaの表層と深層で染色性が強い一方,covered areaは深層の一部に染色性を示したのみであった.ピクロシリウスレッド染色はuncovered areaは表層から中間層で強い発色を示した一方,covered areaでは深層に強い発色を示した.FTIRのAmideI領域の積分値は内外側ともに表層から中間層でuncovered areaの方が大きな値を示した(P<0.01).【考察】軟骨の層構造の中で表層は力学的な支持機構として重要視されている.本研究により表層〜中間層での基質成分に乏しいcovered areaでは過度なメカニカルストレスに対する緩衝能力が低いことが示された.圧縮試験結果でのcovered areaでの高いpeak stressもそれを裏付ける結果となった.この環境下で軟骨・骨複合体に高い圧縮応力が加わると骨密度が低い領域で骨梁の微小骨折を起こし軟骨変性を招きやすい可能性も示唆された.【理学療法学研究としての意義】変形性膝関節症の発症,進行予防を考える際にメカニカルストレスの量だけでなく,それを担う関節面の構造特性も考慮する必要性があるという基礎的なデータを示した.

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© 2013 日本理学療法士協会
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