日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
会議情報

房総半島における滝の後退速度の予察式
*早川 裕一
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 126

詳細
抄録

I はじめに
 河床縦断面における遷急点は,急激な侵食基準面の低下により形成され,上流方向に移動することが一般に知られている.遷急点が後退すると,遷急点より下流では河床が低下し,谷壁斜面基部が不安定化することにより斜面プロセスが活発化すると考えられる.すなわち,遷急点の後退は侵食基準面の低下に対する流域地形の反応に関して,侵食の伝播の先端的な役割をもつといえる.滝は,岩盤河床における典型的な遷急点であり,滝による侵食速度はとくに基盤の露出する流域の地形発達過程において重要な要素となりうる.本研究では,房総半島の滝に基づいて提案された滝の後退速度を推定する経験式について,その追試および検証を行う.
II 滝の後退速度とその予察式
 滝の後退速度は,河川の侵食力(F)と基盤岩の抵抗力(R)との比(F/R)から導かれた無次元パラメータを用いて,以下の式であらわされる(Hayakawa and Matsukura, 2003):
D/T=99.7[(AP/WH)(ρ/Sc)0.5]0.73   (1)
ここで,D :滝の後退距離(形成地点から現在地までの距離),T:滝の形成年代,A:滝から上流の流域面積,P :流域における年平均降水量,W :滝の幅,H :滝の高さ,ρ :水の密度,Sc :滝を構成する岩石の圧縮強度(シュミットロックハンマーの反発値から計算)である.滝の後退速度は,形成されてから現在まで等速として,その平均として求められている.

III データ収集と結果
 本研究では,Hayakawa and Matsukura(2003)の扱った房総半島の9個の滝のほかに,新たに8個の滝を検討対象にした.8個のうち,2個は支流型(Type A),6個は海食崖型(Type B)の成因をもつ滝である.Hayakawa and Matsukura(2003)の方法に従いデータを収集したが,流域面積は50 mグリッドのDEMからGIS上で計算し,また降水量は既存の文献資料から得た.また,滝の形成年代は関連する段丘面の既知の形成年代から推定した. 合計17個のデータをプロットしたのが図1であるが,解析の結果,式(1)は
D/T=166[(AP/WH)(ρ/Sc)0.5]0.77   (2)
と改められる.これは,式(1)と同様の傾向をあらわしている.

IV 考察と展望
 滝の後退速度と侵食力/抵抗力の比との関係を滝の成因別に比較すると,Type A(支流型)とType B(旧海食崖型)とで,後退速度の大きさの傾向に若干の違いがみられた.今後は,こうした滝の種類別,とくに侵食メカニズムによる後退速度の相違の検討を進めるとともに,他地域の滝への上式の適用性を検証してゆく.

文献
Hayakawa, Y. and Matsukura, Y. 2003. Recession rates of waterfalls in Boso Peninsula, Japan, and a predictive equation. Earth surface processes and landforms 28: 675-684.

  Fullsize Image
著者関連情報
© 2003 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top