日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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戦後日本における市町村財政の空間パターン変化:地方交付税を中心に
*梶田  真
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p. 125

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抄録

1.はじめに 報告者はこれまで戦後地方財政に関する定量分析を行ってきたが、平行して収集した地方財政統計の地図化作業を進めている。今回の発表では市町村の地方交付税に関連した主題図(人口あたりの基準財政需要額、経常収支比率(=財政の硬直性を示す代表的な指標)など)を作成し、戦後の空間パターン変化に関する報告者の解釈を示す(解釈の詳細については拙稿(2003)を参照。本発表の内容は基本的に同稿を補完するものである)。なお、利用可能な行政境界データの問題から、現在の市町村境界に合わせてデータの合算を行っている。主題図は1960年から5年刻みに2000年まで作成しているが、過去の資料の制約などからデータが存在しない年次や代替指標を用いているケースもある。2. 戦後市町村財政の空間パターンの戦後変動:地方交付税を中心に 昭和の大合併がほぼ沈静化した1960年の段階において、地方交付税の配分額(普通交付税分)の根拠となる基準財政需要額の人口あたりの額にはそれほど顕著な空間的特化は見られない。このような状況は1965年時でもあまり変わっていない。しかし、1960年代後半以降における一連の補正制度の新設・強化により、1970年の段階では現在の原形とでもいうべき空間パターンが形成され、国土縁辺部における特化が進む。また市町村面積が著しく大きい北海道の市町村では人口規模に関わらず特化がみられる。 実際の地方交付税(普通交付税分)の配分額は基準財政需要額から基準財政収入額を差し引いた額として計算されるがオイルショック後、大都市地域の市町村では不況による税収減に加え、地方交付税の不交付団体では地方交付税を通じた減収補填も受けられないため、これらの市町村を中心に財政危機に陥る(1975年)。しかし、この地方財政危機が人口あたりの基準財政需要額の空間パターンを大きく変えることはなかった(1980年、1985年)。そしてバブル景気により大都市地域の市町村の財政状況は劇的に改善される(1990年)。さらに、地方交付税原資に余剰が発生し、この余剰財源を地域活性化事業などの形で小人口自治体に手厚く配分したため(代表的な事業が「ふるさと創生1億円事業」)、国土縁辺部における人口あたりの基準財政需要額の特化は一層強化される。しかし、バブル景気の崩壊によりオイルショック後と同様に大都市圏の市町村は再び財政危機に陥る(1995年)。地方交付税の原資が不足するようになったことを背景に地域活性化事業などのための財源算定額が削減されたため、小人口市町村への傾斜配分は90年代初頭をピークに後退に転じる。さらに平成の大合併を引き起こす契機となった、1997年以後における小人口市町村をねらい撃ちにした地方交付税の削減策により国土縁辺部に集中する小人口市町村の財政状況は急速に悪化し(2000年)、これらの市町村の多くは合併の選択を余儀無くされることになる。【文献】梶田 真 2003(印刷中).地方交付税の配分構造からみた戦後地方行財政の特質:小人口自治体に焦点をあてて.地理学評論76.

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© 2003 公益社団法人 日本地理学会
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