抄録
“aging in place”とは、高齢者が出来る限り住み慣れた住宅や場所に住み続けることを意味し、加齢によって低下した身体的機能を補う様々な住宅機能の開発にともなって1980年代以降アメリカで急速に普及した概念である*。近年わが国でも、地域社会における高齢者の生活支援のあり方に関する議論で耳にする機会が増えている。本研究では、ドイツの大都市郊外に住む高齢者の“aging in place”と、彼らが住み続けることを可能にしている地域社会について考察を試みる。ヨーロッパの中でも高齢化の進展が著しいドイツでは、「相対的な」団塊の世代ともいえる1940年前後生まれの世代**がちょうど高齢期に突入し、とりわけ大都市圏郊外で急速に高齢化が進んでいる。もともと、ドイツの都市部では単身または夫婦のみで暮らす高齢者の割合が高く、日常的に自立した生活(とりわけ子どもからの自立)を強く指向する傾向にある。一方、彼らがかつて世帯形成期に住み始めた郊外の住宅地、あるいは住居そのものは、身体機能の低下や子どもの転出という加齢による住要求の変化にともなって、余分な居住空間の維持・管理、庭の手入れ、外出の際の移動手段の確保など、高齢期の生活に様々な不都合をもたらしている。にもかかわらずドイツでは、完全看護が必要になる段階に至るまで長年住み慣れた地域に住み続けることを大多数の高齢者が望んでいる実態が報告されている(Friedrich,1995)。そこで本研究では、ドイツの大都市郊外に住み続ける高齢者が、住み慣れた住宅地で自らの居住環境にどのように働きかけ、また、子どもや近隣・友人との繋がり、地域社会の福祉サービスなど彼らの生活を支える物的・人的環境がどのように構築されているのかという点について、ハンブルク市で実施した調査結果や資料をもとに多角的に検討する。注*“aging in place”の定義は必ずしも明確ではないが、一般的に”growing older without having to move”と解されている。最近では、救急通報システムや配食サービスなど自宅で生活を続ける高齢者向けの商品や、要介護になっても居住を継続して必要なケアが受けられる高齢者向け住宅商品などの総称として“aging-in-place products”や“aging-in-place technology”という表現もみられる。**本来、ドイツにおけるベビーブーム世代は1953年_から_64年生まれであるが、1930年代は経済恐慌の影響で、また1940年代半ばから1950年代初頭までは第二次世界大戦の影響で一時出生率が低下したため、相対的に1940年前後のコーホート集団が量的に突出する形になった。文 献Friedrich, K. 1995. Altern in raeumlicher Umwelt. Steinkopf, Darmstadt.