抄録
1.はじめに 荒川扇状地は、埼玉県寄居町岩崎付近を扇頂とする東_から_北西に開き、荒川によって形成された扇状地である。本扇状地は解析扇状地で、現扇状地面にはいくつかの段丘が発達している。本扇状地の不圧地下水については、従来から多くの研究があるが、これらの段丘を考慮して地下水のあり方を検討した例は少ない。演者らは渇水期と豊水期に相当する2002年3月と7月に、本扇状地の不圧地下水の測水を行い、従来とは異なる結果を得たので概略を報告する。また、扇端部に存在すると考えられる深谷断層との関係についても予察的な考察を加えたので、合わせて報告することにする。2.地下水面図について 本扇状地面を3つに大きく区分し、時代的に新しい方から、低位面(現扇状地面)、中位面(立川面)、高位面(武蔵野面)と呼ぶことにする。いずれの面の不圧地下水も地下水が河川を涵養するような地下水面形状を示している。地下水面の傾きは高位面に於いては比較的緩いようであるが、中位面及び低位面に於いては比較的急である。この傾向は、渇水期及び豊水期ともに同様であった。3.地下水位の年変動について 扇頂部及び扇央部における渇水期と豊水期の水位差は2m未満であったが、高位面ではそれ以上を記録したところもあった。とくに、荒川沿いの低位面及び中位面では、その差が1m以下のきわめて水位が安定している地域が帯状に連なっている。 一方、中位面及び低位面では、その差が1.5mを超え、1.5mの水位差を示す等値線は、深谷断層の位置にきわめて近いところに引かれる。4.地下水位と深谷断層との関係扇頂部から扇端部にかけて地質断面を切り、渇水期と豊水期の地下水位とを比べてみると、明らかに、深谷断層の位置する辺りで地下水位が極端に低下するように見える。これは深谷断層が、地下水瀑布線としての役割を果たしている可能性もあることを示唆していると考えられる。本報告ではその可能性を指摘するに留め、今後さらに研究を進めて行くつもりである。5.湧水について本扇状地の段丘崖や扇端部には多くの湧泉が存在するが、渇水期には涸渇するものが多い。豊水期における湧水は、扇状地面の水田からの漏水によって成立しているものがほとんどである。6.水質について扇状地面に位置する井戸から採水をし、水質分析をした結果、本扇状地の不圧地下水は硝酸イオン濃度が高く、農業起源の人為的な汚染が見られることが判明した。7.まとめ 本報告の概要は以下の通りである。(1) 荒川扇状地に於いて、測水調査を実施した結果、地形面ごとの地下水面の形状を明らかにした。荒川から地下水への涵養はほとんど見られず、逆に、地下水が河川を涵養するような地下水面形状をしていることが判明した。(2) 深谷断層を境にして下流側の地下水位は極端に低く、断層が地下水瀑布線として機能している可能性を示唆した。(3) 本扇状地の不圧地下水には、農業起源と考えられる地下水汚染が見られる。