日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
会議情報

福祉コミュニティの実践
文京区寿会館の事例
*西 律子
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p. 136

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抄録
1. はじめに今日,施設から在宅へという福祉政策の流れのなかで,地域(社会)の役割が重要視されている.地域福祉を推進するにあたって,三本松(1998)らが提唱するのが福祉コミュニティ(論)である.三本松(1998:240-241)は,都市型社会のコミュニティについて,「住民が『生活』という点で関係をつくっている地域の範囲」において取り結ばれる「主体的な選択に基づく人と人との関係性」を表わすとし,そのうえで福祉コミュニティを,福祉社会を具現化する場としてのコミュニティであり,他者との絆を求めるという連帯意識に基づく開放型のコミュニティであると定義している.エイジングの経験は歴史的,社会的,地理的に特徴付けられる(パイン他2000)のであり,報告者は,都市居住高齢者にとっての福祉コミュニティを考えていくうえで,生産_-_再生産から離脱した者,さらに単身といった属性を押さえ,高齢者が生活するなかで関わってくる地域やそこでの関係性を捉えることが必要であると考える.ここでの地域は実体としての地域であり,物的環境,地表に刻み込まれた資本,歴史の記憶といったことを含む.2. 文京区寿会館での調査報告者は高齢者が関係を取り結ぶ場として寿会館(老人いこいの家)に着目し,2003年1月から3月にかけて,大都市圏内部にある文京区内の寿会館5ヵ所において利用者41人(うち単身高齢者24人)を対象に,寿会館の利用目的,そこでの社会関係についてインテンシブな聞き取りを行った.文京区の寿会館は,1971年に策定された「文京区基本構想」におけるコミュニティ構想のなかで,地域に開かれた,高齢者(60歳以上の区民)のための施設として位置づけられ,住区(コミュニティを形成するエリア)ごとに1館,距離にすると500メートル圏内に1館の割合で設置する計画で,現在17館に至っている.会館での事業は1972年から開始され,週4日無料で入浴ができるほか,月1回無料の健康相談,健康教室,さらに地域で結成された高齢者クラブの活動拠点ともなっている.会館によって差はあるが,1日平均約40人の利用がある.3. 緩やかな「高齢者の社会」の構築聞き取り調査の結果,単身高齢者の寿会館を媒体として取り結ばれる社会関係については次のことが明らかとなった._丸1_利用のきっかけは「知合いに誘われて」が8割,「自分で探して」が1割,「親族が探して」が1割である.ここでの知合いは居住年数が長い人は近隣における顔見知りであり,居住年数の短い人は日常用品を購入する商店主や通院中の病院のスタッフなどである._丸2_利用の目的は入浴のみが4割,入浴とサークル活動が4割,サークル活動のみが2割である.入浴にかかる費用節約のためだけではなく,入浴を通したふれあいも通所の動機づけになっている._丸3_寿会館が徒歩圏内にあるという近接性,簡易な登録手続きによって使用できるといった利便性が使い勝手のよさを提供している._丸4_会館で催される高齢者クラブ主催のサークル活動へは,居住年数が長く,町内会の老人会で親しい高齢者同士がメンバーとして参加しており,居住年数の浅い単身高齢者は活動に参加するきっかけを得にくい状況にある._丸5_エイジングによって,旧友との死別,また自身の体力が低下し,社会関係や行動範囲が狭まるなかで,対面接触による関係性構築の機会や場が生活圏域に開かれていることが利用者にとって意義深いものになっている.寿会館では高齢者クラブのように閉ざされた関係と入浴を通した開かれた関係が重層しており,利用者はそういったことを理解し,総体として地縁より緩やかな「高齢者の社会」が形成されている.単身高齢者が関係を取り結ぶ場の一つであり,福祉コミュニティ実践の一つの拠点となりうる.文献三本松政之1998.ボランティア活動と福祉コミュニティ.古川孝順編『社会福祉21世紀のパラダイム』誠信書房,231-248.Pain.R.,Mowl.G. and Talbot.C.2000.Difference and the negotiation of ‘old age’.Environment and Planning D:Society and Space:377-393.  
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© 2003 公益社団法人 日本地理学会
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