抄録
1.研究目的 発表者は以前,利根川中流域を研究対象地域として,その地域内に存在する野菜生産形態の地域的差異の要因を解明し,野菜生産地域の発展過程を求めた(岡田,2002)。その結果,利根川中流域ではとくに農協や農業研究会,県の営農指導のもとに,農家が地域ごとに栽培作物や栽培技術を導入してきたことによって,野菜生産地域が分化してきたことが明らかになった。しかし,わが国の野菜生産地域にはその地域内で栽培される作物に,ほとんど違いがみられない野菜生産地域も存在している。そこで本研究では関東地方の野菜生産地域において,地域内で栽培されている作物がほぼ同一である下総台地の野菜生産地域を取り上げ,この地域内において野菜生産形態の地域的差異を確認してその要因を解明し,野菜生産地域の発展過程を明らかにする。2.野菜の共販地域の拡大 下総台地の野菜生産地域においては1940年代まで,農家は栽培した野菜をおもに仲買人へ直接的に販売してきた。1950年代になると,八街市・富里市・山武町では農家は集落単位で組織される出荷組合により野菜の共販を行なうようになってきた。1960年代にはこれら3市町合わせておよそ40ほどの出荷組合が存在しており,ほとんどの農家が出荷組合により共販していた。その後,農協の合併にともない農家は出荷組合による野菜の共販から,徐々に農協による共販へと出荷形態を移行してきた。一方,芝山町では1953年に丸朝園芸農協が設立され,農家は仲買人への直接的な販売から,徐々に丸朝園芸農協による共販へと出荷形態を移行してきた。このように野菜の共販地域が拡大してきたことが,野菜生産地域の統合要因の一つである。3.野菜の共販地域と生産形態 下総台地の野菜生産地域では八街市・富里市・山武町・芝山町においてとくに野菜生産が盛んである。これら4市町における野菜の生産形態をみよう。八街市では農家により栽培された野菜の約75%が旧八街市農協の範囲で共販されている。そのうちスイカ以外のほとんどの野菜はいんば農業共同組合のグリーンやちまた集選果場を通じて共販されている。富里市では栽培されたほとんどの野菜が富里市農協により共販されている。山武町の睦岡地区と日向地区ではニンジンとトウモロコシは山武郡市農協により共販されており,それ以外の野菜は山武郡市農協の睦岡支所と日向支所でそれぞれ共販されている。芝山町では栽培された野菜の約70%が丸朝園芸農協により共販されている。農協により共販されていない野菜については,八街市・富里市・山武町では集落単位で存在する出荷組合や丸朝園芸農協による共販,農家による生協との契約栽培,農家による市場や仲買業者への直接販売などが行なわれている。芝山町では山武郡市農協またはその各支所や出荷組合による共販,農家による生協との契約栽培,農家による市場や仲買業者への直接販売などが行なわれている。 すなわち,下総台地の野菜生産地域では農家により栽培されたほとんどの野菜が農協またはその支所ごとに共販されている。そのため,農家は農協により決められた品種や出荷時期で野菜の共販を行なっている。さらに,この野菜生産地域では農家はおもにスイカ・ニンジン・トマトを生産しており,4市町ともに農家はほとんど同様な生産形態である。<参考文献>岡田 登(2002):利根川中流域における野菜 生産形態の地域的性格.日本地理学会発表要 旨集,61,163.