抄録
はじめに 今日,気候の過去の動向把握・将来予測が求められているなか,その解析のベースとなる全球規模のデータセットの整備が行われてきた.さらにその基盤となる地域ごとの,長期気候データベースの構築とその解析を行うプロジェクトがヨーロッパ諸国を中心に行われている. 一方日本では,1880年代以降の気象庁による気象観測データが一般的なデータセットであった.1880年代以前の観測記録については,ほとんど知られていなかったが,最近,財城ほか(2002)・Können et al.(2003)によって,1818年から1883年に出島(長崎)でオランダ人医師らによって行われた気象観測記録が報告された.その後,我々の研究プロジェクトによる追跡調査で,さらに東京・横浜・大阪・神戸での気象観測記録が明らかとなった.こうした19世紀以前の観測記録の汎用化によって,気象庁の観測記録と連結させ,より長期にわたる気候変動の解析が可能となる. 本研究では,19世紀の気象観測記録を気象データとして使用するために補正・均質化し,データベース化を行う.そして,19世紀の観測記録と気象庁の記録とを連結させて,19世紀以降の気候変動に関して考察を進めることを目的とする.19世紀の気象観測記録 財城ほか(2002)・Können et al.(2003)は,オランダ人医師らによる長崎(出島)での気象観測記録に関して報告を行った.その後,江戸(東京)での観測記録(1825-1827,1838-1855,1872-1874)の所在も明らかとなった.1838-1855年の記録は『霊験候簿』と呼ばれ,徳川幕府の天文方によって行われたものである(天野 1953).観測は主に,1日最低3回(不定時)行われ,気温は華氏,気圧はイングリッシュインチで記録されている.