日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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パネルディスカッション(全体趣旨):地理学の発展
*野上 道男
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キーワード: 地理学, 発展, 動向, 制度, 学術会議
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p. 157

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抄録
公的制度上の地理学 いうまでもなく、研究分野の存在意義は学問的に評価されるべきである。しかしながら研究は社会や国と無関係に行われているのではないので、社会や国が外形的な制度として研究分野をどのように扱っているかは、評価として重要な部分を占めている。 地理学についての公的制度上での評価として、以下のような項目をあげることができる。1)初等中等教育における教科としての扱い2)研究科・学部・学科・専攻など大学制度上の位置づけ3)科研費制度における分科細目などの分類表上の位置と  採択件数・金額など4)日本学術会議において、研究分野を代表する会員数・  研連委員数などの配分率5)国・自治体による関連機関・研究所などの設置状況 学校教育地理教科の地位低下、主要国立大学大学院に於ける地理学専攻の消滅など、各種の制度改革が行われるたびに、制度上の地理学の評価は低下している。このことは科研費の配分制度や学術会議の機構のようにきわめて守旧的な制度のもとでは地理学が一定の地位を占め続けていることと対照的である。しかしながら、いわば最後の砦ともいうべき学術会議も現在機構改革のまっただなかにある。 現行の学術会議では、一部(人文社会学)に人文地理学が、四部(理学)に地理学が分野(代表)研連として位置づけられている。課題別研連として地図学研連がある。もちろんそのほか第四紀研連、太平洋学術研連など地理学の研究者が参加している課題別研連もある。現在検討が続いている学術会議改革案によれば、旧帝大の制度に倣った7部制は廃止され、新たに3部制(人文社会、生命、理工)をとるとされている。とにかく学問の分類が行われる限り地理学の分断は続くことになる。 さらに改革案によれば、これまでの研連は廃止され、連携会員(仮称:ほぼ現行研連委員数)によって課題別委員会が構成される。注意すべきは歴史的に固定されていた分野を代表する研連がなくなり、必要に応じて弾力的に作られる課題別委員会だけになるということである。時代や社会の要請に柔軟に対応するという方針のもとで、小さな分野が統合廃止されることは国立大学の改革をみれば明らかである。そのような状況ではあっても、地理学に携わるひとは地域・環境・情報をキイワードに、社会あるいは科学者コミュニティ、大学内において、地理学の認知度や評価を高める努力をすることが求められよう。 制度としての地理学の衰退にも拘わらず、学問としての「地理学」は非常な隆盛にある。多くの地理学研究者が細分化された孤立的研究課題に閉じこもろうとするいっぽうで、歴史的に地理学の分野であった古典的な課題に、隣接する多くの分野の研究者が参入してきている。その多くは、リモートセンシング、GIS、観測・分析手法など社会で通用する技術をもち、学問的伝統がない故に単純な決定論に陥ったりすることはあっても、環境・地域・計画などの面で「地理学」の内容を豊かなものに変えつつある。パネルディスカッションの内容 18期の地理学研究連絡委員会は、上記のような認識から、地理学は現在大きな転換期にあると考え、通常の任務に加えて、以下のような3のワーキンググループを組織し、1)物の豊かさから心の豊かさへという価値観転換期にお  ける地理学のあり方を検討する「地理的倫理」WG  座長: 中村和郎、戸所隆、小泉武栄、山口幸男、  安部征雄、中田高2)地理学の発展を支える技術的基盤を明確にし、実効あ  る方策を探る「技術基盤」WG  座長:岡部篤行、  鶴見英策、近藤昭彦、清水英範、春山成子、  (森田喬地図研連委員長)3)地理学の研究動向を見通し、適切な指針を与える「研  究動向」WG  座長:田村俊和、氷見山幸夫、  漆原和子、田辺裕それぞれ検討を深めてきた。 今回のパネルディスカッションでは、上記の3つのWGごとにテーマを定め、各WGの座長が司会、グループの委員がパネラーとなり、公開で討議を行う。時間が許す限り会場からの発言も取り入れたい。
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© 2003 公益社団法人 日本地理学会
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