日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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夏季モンスーン期における台風活動が循環場の季節推移に与える影響
*高橋 信人
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p. 159

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抄録
1.はじめに 梅雨期、盛夏期、秋雨期において、日本付近を取り巻く下層循環場は大きく変化する。そして、それぞれの季節で、南シナ海_から_西部太平洋付近に発達する低緯度トラフは、低緯度から中・高緯度へ温暖湿潤な気塊を運ぶ役割を果たし、日本の季節推移や年々変動と深く関わっている。一方で、低緯度トラフが発達する領域は、台風活動が活発な領域と重なることから、両者の間にも密接な関連性があると考えられる。しかし、台風が発生する循環場などについての調査は多い一方で、台風活動が循環場の季節推移に与える影響についての調査はあまりみられない。そこで、本研究ではこのことを解明することを目的として解析をおこなった。2.データと解析方法 台風データは気象庁のTyphoon Best Track Data(1951-2000年)を用いた。このデータは最大6時間の時間間隔があるため、本研究では内挿法によって1時間ごとの台風位置を求め、時空間的により密なデータを作成した。また、循環場の解析にはNCEP(National Center for Environmental Prediction)の再解析値(1979-2000年、2.5゜グリッド、6時間ごと)の850hPa面のジオポテンシャル高度を用いた。また海面水温はReynolds SST(1982-2000年、1゜グリッド、週平均値)を用いた。 本解析では、従来の台風研究に多くみられる夏季、秋季という分け方ではなく、5つの期間(梅雨前、梅雨期、盛夏期、秋雨期、秋雨後)を定め、特に梅雨期、盛夏期、秋雨期の台風活動に注目した。まず、各年、各季節で5゜グリッドごとに台風の存在数を集計した。そして、各期間で、その年々の台風存在数について、0-40゜N, 100-170゜Eの領域において主成分分析をおこない、各期間の台風活動の年々変動パターンを明らかにした。次に、各期間の第1、第2主成分において、主成分スコアの上位、下位、それぞれ5年の850hPa面の高度の合成図を作成して、台風存在数との対応関係を調べた。さらに、スコアの上位5年について、直前の期間(例 盛夏期の主成分の場合は梅雨期)の海面水温分布の合成図、および、直後の期間から直前の期間の海面水温の平年偏差を差し引いた合成図を作成し、各期間で台風存在数が高い状態が発生する前の海面水温分布と、台風活動が海面水温分布に与える影響について検討をおこなった。3.結果 梅雨期と盛夏期では、台風存在数自体の年々変動を示すと思われる固有ベクトル分布が第1主成分に現れた(図1)のに対し、秋雨期では第2主成分に現れた。秋雨期の第1主成分(図2)は台風活動の東西方向の違いを示していると考えられ、その固有ベクトルの分布は梅雨期の第2主成分と類似していた。また、各期間の第1、第2主成分に注目し、それぞれの主成分スコアの上位、下位、それぞれ5年の850hPa面高度の合成図を作成すると、台風存在数の年々変動が850hPa面の高度と密接に関連していることが確認できた。また、このような台風存在数の年々変動に伴う循環場の差異は、例えば、梅雨期に北太平洋西部域で台風活動が活発な年には、西日本および中国大陸の前線頻度は減少する傾向があるなど、日本付近の前線分布にも影響を及ぼすことがわかった。 次に、各期間の第1、第2主成分のスコアの上位5年における直前の期間の海面水温分布をみると、いずれも台風存在数の高い領域が海面水温の南北勾配が大きい領域の暖水側にあることがわかった。また、各期間の第1、第2主成分のスコアの上位5年における、直後の期間から直前の期間の海面水温の平年偏差を差し引いた合成図をみると、いずれも、台風存在数が高い領域では海面水温が下降し、その北側(太平洋高気圧内)では上昇しており、直前の期間にみられた海面水温の南北勾配を解消する方向に作用していることがわかった(図3,4)。特に海面水温偏差が小さい年においては、台風活動によって海面水温偏差の分布パターンが大きく変わると考えられ、このことは直後の期間の台風活動および循環場に対して大きな影響を与えると思われる。  
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© 2003 公益社団法人 日本地理学会
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