抄録
平成14年度より全面実施となった新学習指導要領のもと、中学校社会科の授業実践も様々な面で大きな転換点を迎えているように思われる。なかでも、地理的分野については、今までの内容を見直して再構成されたことから、現場の教師にとっても大きな変化であると受け止められている。昨年度、島根県内の中学校を対象に、新しい学習指導要領のもとでの実践についてのアンケート調査を実施し、その結果をもとに研修会なども行ってきたが、特に規模に応じて地域的特色をとらえる視点や方法を学ぶ「大項目(2)地域の規模に応じた調査」について、現場の教師が悩みながら取り組んでいる状況が浮かび上がってきた。とりあげる都道府県や国の選び方、どういった視点で学んでいくのか、学び方を学ぶためには一つの県や国を扱う時間数が少ないなど、今回の改訂でとまどいを感じている先生方は多いように思われる。前回の改訂においても、世界とその諸地域は事例地域として取り扱うようになっており、その趣旨を十分に理解し、実践してこられた先生は、「二つ又は三つの国を事例として取り上げる」ということについて、それほどとまどいは感じないはずである。しかし、現状は必ずしもそうではなく、事例地域として扱うことがそれほど意識されてこなかったのではないだろうか。さらに「大項目(3)世界と比べてみた日本」の学習についても、今までの地誌的な扱いから大きく変化することになった。世界的視野から日本を一つの地域として追究したり、日本全体の視野からおおまかな国内の地域差を追究することによって、日本の国土の特色を明らかにすると共に、日本の地域的特色について学ぶ学び方もあわせて学習する項目である。ここでも、地域の規模が大きいだけに、地域的特色を明らかにする上で、地域に住む人間の営みがみえてきにくいといった問題点を指摘する声も多い。「自然環境からみた特色」や「資源や産業からみた特色」については、小学校の扱いもふまえて事例地域を扱えないことになっているが、そのことによっていっそう人間の営みが出てきにくくなっているともいえる。以上のように、新学習指導要領の全面実施に伴い、中学校の現場では現在も試行錯誤を繰り返しながら実践が行われているのが現状ではないだろうか。 こういった状況のなかで、社会科・地理的分野を教えるうえで不可欠な技能や資質についても見直していかなければならないであろう。新学習指導要領が実施される前に、多くの学校で、3年になっても歴史学習を引き続き行っている学校が数多くあった。3年生の公民的分野の時数が週に2_から_3時間になっていたため、上限の3時間で公民的学習を行っていると、3年時にある程度歴史がくいこんでいても公民的分野の学習を終えることができたのである。もちろんこれからはそういうわけにはいかないだろうが。しかし、地理的分野の学習が3年にまで食い込んでいたという話はほとんど聞いたことはない。教師の中にある歴史教育に対するこだわりと地理教育に対するこだわりには実はかなり違いがあるのではないかというのが実感である。学び方を学ぶ学習を充実する上で、今回の学習指導要領では、「地理的技能」を身につけることができるよう指導することが明示されている。「地理的技能」には、地理情報の活用に関する技能や地図の活用に関する技能などがあるが、「学び方を学ぶ」学習を行っていくために、教える側が「地理的技能」を積極的に身につけていく必要があることは言うまでもないであろう。昨年東京で地図指導に関する研修会が開催されたが、全国から実に多くの参加申し込みがあったそうである。実際、研修会に参加してみて、全く知らない土地を観察しながら歩いてみて、地図化してあらわすという作業は非常に楽しい経験であった。日頃から多忙な教師自身にそういった経験は意外と少ないのではないだろうか。各都道府県で、大学の教員と連携しながら、教師の地図指導に関する技能を高めていくような研修の機会を増やしていくことは、これからますます必要になってくるだろうし、日本の地理教育を充実させていくためにも、ぜひとも大学に協力してもらいたいところである。 また、こういった研修の場を活用しながら、小学校との連携を深めていくことも大切であろう。小学校の学習指導要領において、「地図や統計資料などを効果的に活用し、次第に我が国の都道府県の構成がわかるようにすること」という内容が位置づけられたことは、中学校の大項目(1)の事前学習にあたる部分としても非常に重要である。そしてこのような小学校の取り組みをふまえた中学校の地理教育のあり方について、今一度考えていくことが大切ではないだろうか。