日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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地理教育改革への期待と課題―高等学校現場からの提言―
*泉 貴久
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p. 166

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抄録
1.本発表の目的 「生きる力」を学力の指針として掲げた新学習指導要領(以下、新指導要領)に基づく授業実践が、今年度より高等学校(以下、高校)においてスタートした。この「生きる力」は、生徒たち自らが課題を設定し、その解決に向けて主体的に学ぶことで、一定の結論を導き出していく能力のことをいう。いわば、「知識の習得」や「理解の程度」を学力の基盤としてきた従来型の教育から、生徒たちの「意欲・関心・態度」「思考・判断」「技能・表現」を重視した教育への転換が新指導要領の実施を機により一層図られたともいえるのである。 さて、このような高校現場における変化の動向を踏まえ、本発表では高校地理教育改革に伴う変化の特徴とそれによって生じる諸課題について言及していくこととする。また、高校地理教育のねらいを市民性の育成に求め、それを達成するにあたって不可欠とされる視点について若干の提言を行うことで、地理教育活性化のための何らかの手がかりをつかんでいきたい。さらには、地理教育活性化へ向けての中高・高大連携のあり方や教員養成のあり方についても若干の提言ができればと考えている。2.新学習指導要領の下での高校地理教育の変化と課題新指導要領の下での地理教育の特徴として、「地理的見方・考え方育成の強化」「地理的技能育成の重視」「網羅主義から事例主義への転換」「現代的諸課題への対応」などをあげることができる。言うなれば、「覚える地理」から「考える地理」「役に立つ地理」への大幅な転換が図られているともいえるのである。こうした地理教育の構造的変化(これを仮に「新しい地理教育」と呼ぶ)は、理念や内容論、方法論における革新をもたらすことになり、その結果として、「多種多様な授業形態の導入」「暗記学習からの脱却」「学習者の主体的な学び」「活発な授業展開」を促していくことになる。そればかりか、学習の結果として身につけた知識や概念、技能や態度などの幅広い学力を、生徒たちの社会参加へと結びつけていくことにもつながり、またそのことが、地理教育そのものの社会的有用性の確立にも一役買うことにつながっていくのである。だが、「新しい地理教育」は、方法知がとかく重視され、内容知がどちらかといえば軽視されているのではないかとの指摘が一方ではある。例えば、調べ学習や発表学習等が陥りやすい技能面の過度な重視が活動主義に陥り、生徒たちが本来習得するべき知識量の絶対的な不足を招く結果となり、世界像の形成という観点からみて大きな問題をはらんでいるのではないかという指摘である。また、地誌学習の本質とでもいうべき地域そのものが地理的諸事象考察のための手段として位置づけられるようになり、その結果、地域理解を学習目標の一つに設定している地理教育そのものの根幹がゆらぎ、その独自性までもが喪失してしまうのではないかという指摘も少なからずある。それゆえ、学習課題を設定するにあたっては、内容面での構造化をどう図るのか、あるいは方法知と内容知とのバランスをどう図るのかといった点が今後問われてくることになるだろう。3.高校地理教育の本来のねらい 地理教育は、学校教育の分野において歴史教育や公民教育とともに社会認識形成教科・市民的資質育成教科の一端を担うべき学習領域として位置づけられている。また同時に、社会科学・政策科学である地理学の応用分野の一端を担うべき学問領域としても位置づけられている。こうした点を鑑みると、「地域の特性を踏まえた社会的諸問題の考察やその解決策の模索、地域づくりへ向けての政策提言、ないしは社会参加のための能力の育成」に高校地理教育における学習目標の重点化がなされるべきであると発表者は考える。すなわち、市民性の育成こそが高校地理教育の最終目標に据えられるべきなのである。なお、このような視点は、地理的諸事象の認識レベルにとどまっていた従来の地理教育のあり方を問い直し、その社会的地位を高めるとともに、新たな境地を拓くものとして注目されるべきである。
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© 2003 公益社団法人 日本地理学会
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