日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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地理教育力のさらなる向上をめざして
*井田 仁康
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p. 167

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抄録
1. 地理教育としての課題「生きる力」を育成するために、「学び方を学ぶ」学習が、地理学習でも重視されてきた。その一方で、学力の低下が指摘され、基礎・基本の重視が見直されるようになった。現行の学習指導要領では、基礎・基本を軽視しているわけではないが、方法 が強調されるあまりに、知識の獲得がないがしろにされているという印象をもつのであろう。さらに、「総合的な学習の時間」の創設により、体験的(調査活動)、総合的なものは「総合的な学習の時間」へと移行し、社会科および地理の学習がより一層限定的なものと認識されている。しかし、「総合的な学習の時間」は、特に高等学校では実施に混乱がみられ、教科主義におちいった教育内容を、横断的なもの、実社会に即役立つような教育内容へと変換させようという試みは、必ずしもうまくいっていないようにみえる。そこで、本発表では、「基礎・基本」「総合」「調査活動」をキーワードに、地理 教育の課題を指摘し、教員養成課程での地理教育のあり方を考察していきたい。2. 基礎・基本と地理教育 地理では、基礎・基本はいくつかの柱でとらえなければならない。その柱として、まず第1に知識があげられる。第2として技能(スキル)があげられる。地図や表、グラフを作成し、解釈する力である。そして第3に考察のプロセスがある。地理では、分布の把握、比較、その要因の分析が行われ、その際の観点として、位置、場所、地人相関、空間的相互依存作用、地域変容がある。地理的見方・考え方ともいえるものである。これが考察のプロセスで、基本的な地理の見方・考え方、分析・解釈 の仕方ということができる。そして、第4に学習のプロセスである。学習のプロセス は、課題の把握_-_資料の収集_-_整理_-_分析・解釈_-_意思決定・価値判断_-_活動の一連 の学習活動をさす。考察のプロセスは、学習のプロセスの「分析・解釈」にあたると考えられる。これら4つの柱は、お互いに関連しあっている。たとえば知識がなければ、考察のプロセスも学習のプロセスも成立しない。アメリカの学習で考察、学習のプロセスを 成立させるための知識が、基礎・基本の知識ということもできよう。技能についても同様である。そして、このような基礎・基本は誰が、どのように提示するのかも大きな問題となっている。この点に対しての学会への期待は大きいが、知識(語句)を独 立させて基礎・基本を提示しても、地理教育としての基礎・基本として受け入れるのには難しさがある。3. 総合としての地理教育もともと地理および社会科も総合的な科目とされていた。しかし、内容が硬直化することにより、総合性が薄れてきた。すなわち、学習の系統性や内容の枠組みが決められることで、地理は現代的な課題に対処できなくなってきたということができる。国際理解、環境など地理が主として扱う内容でも「総合的な学習の時間」の内容とされている。教授する側もされる側も「これは地理、ここは地理ではないからはいりこまない」という了解があるように思える。この地域の環境を理解するためには、この地域の歴史から、あるいは気候のメカニズムから、政治からのアプローチが必要であれば、それを地理として学習する必要がある。これらは、あくまでもその地域を理解するための要因であるので、地理の学習内容と考えるべきであろう。「総合的な学習の時間」でも、それほど多くの内容を学習できるわけでもなく、オーストラリアでは 「環境」という科目が、結局もとの「地理」に包含される傾向にある。学習方法論が きっちりしているものに帰ってくる好事例である。4. 調査活動と地理教育 地理では地域調査が重要な資料の収集の手段であり、分析・解釈においても有用である。小学校では、課題の把握_-_調査活動_-_発表というプロセスが行われるが、分析・解釈は十分におこなわれているとはいえない。中・高等学校では考察のプロセスは重視されるが、地域調査自体が行われなくなる傾向がある。体験・調査を重視する 教育の傾向ではあるが、小学校から高等学校までを見据えた、系統的な地域調査法が考えられるべきであろう。5. 教員養成課程での地理教育の展望 以上のことをふまえ、教員養成課程でも、学生に「生きる力」「学び方を学ぶ」ための授業が必要であり、そのための基礎・基本としての知識をつけさせなければならない。地理の知識を伝授するだけでなく、現場へ出たときに問題意識をもてる、学生 自身が考えるような課題提示型の授業をどう展開していくかが、今後の課題となってこよう。 
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© 2003 公益社団法人 日本地理学会
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