日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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地理を教えるということとは?
*川田 力
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p. 168

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抄録
1.  問題の所在 小・中学校では平成14年度から、高等学校では平成15年度から新学習指導要領に基づく教育が開始された。新学習指導要領は、新しい学力観として「生きる力」「自ら学ぶ力」が前面に押し出され、知識・理解といった従来の学力観からの転換がより際立っていることに特色がある。これは、具体的には小・中・高等学校で使用されている教科書の記載内容の変化に顕著にみることができる。  地理教育・社会科教育に関してもこの変化は明確で、多くの教科書の中に、学び方・調べ方・まとめ方・発表の仕方などのコラムが採用されている。このことは、まさに自ら学ぶ方法を習得させようとする方向性を明快に示している。 こうした変化は、地理(社会科の地理的分野も含む)を教える教員の側にも指導法・教材開発等の具体的な教育実践の場で新たな対応を余儀なくさせているものと思われる。地理教育の研究においては、従来から、こうした変化に対応すべく新たな指導法や教材が少なからず提案されている。しかしながら、新学習指導要領下での学習指導の実態や教員の置かれている現状については一般にはもとより、地理学界においてもさほど知られていない。そこで、今回は小学校・中学校・高等学校・大学の現場において「地理を教えるということとは?」どのように捉えられているのかを把握し、各学校段階でいかなる取り組みが展開しているのか、また、いかなる指導上の困難や問題点を有しているのかについて具体的な報告を基にして議論したい。2.地理教育と学校間連携 新学習指導要領の下では、学習内容の精選が行われ、その結果としての学習内容の削減が昨今の「学力低下論争」を引き起こしていることは周知のことである。もちろん、地理を教える際にもこのこととは無縁ではない。地理教育・社会科教育においても小・中・高等学校の各学校段階間での重複が極めて少なくなるよう学習内容が整備・配置されたため、それぞれの学校段階で児童・生徒に十分な学力がついていないと次の学校段階での学習指導が行いにくいという事態が生じてきている。こうした状況に加えて、義務教育段階においても展開しつつある学校の個性化・教育内容の多様化および高等学校地歴科における地理の選択科目化は、一律な学習指導を行いにくい状況を生じさせている。例えば、大学においても高等学校で地理を選択履修していない学生は、中学校卒業レベルの知識を頼りに大学での地理学関係の授業科目を履修せざるをえない状況が生じている。地理の選択科目化は地歴科の成立に遡るので、このこと自体は最近の問題ではないが、近い将来、新学習指導要領の実施による学習内容の精選の影響が多様な形で出現することは確実視されている。こうした問題を助長する背景の一つとして、各学校段階でその前後の学校段階での学習活動との繋がりが見えにくい、ないしは十分意識されていないという問題点があげられる。地理教育で必要とされる「自ら学ぶ力」を確実に育成するためには学校間連携を密にし、系統的な指導がなされることが有効であると考えられる。そのために、実際に各学校間でとりうる具体的な連携のあり方と内容について検討し、具体的アクションプランを立案する足掛かりとしたい。3.地理を教える教員を育成するために 高等学校地歴科の教員免許取得の場合はさほどではないものの、小学校・中学校(社会)の教員免許を取得する際に必須となる地理学関係の単位数は多くない。小学校教諭の免許取得の場合、一部に地理的分野の内容が含まれている社会科の内容に関する科目を1コマとるだけ(地理・歴史・公民各分野均等に内容が振り分けられているとすると4_から_5時間地理的分野の内容の講義を聴くだけということになる)でことたりる。中学校教諭の免許取得でさえ、地誌的内容を含む地理学概論等の科目を1コマとるだけで必要条件は満たされる。このことから、現状では,高等学校で地理を履修しなかった場合、地理に関しては中学校卒業レベルの学力プラス大学での1コマ程度の地理学関科目の単位を修得したのみで教壇に立つ教員は少なくないものと思われる。教員採用試験で個人の教員としての能力は再度吟味されるとはいうものの、教員養成機関としての大学が高等学校までの学校教育に果たす役割を再確認し、地理を教える教員として不可欠な能力・技術を明確にし、それを修得させるための適正なプログラムを制定し、確実に実施する必要がある。そのために、学会の果たす役割は大きい。
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© 2003 公益社団法人 日本地理学会
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