日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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地形図で認識される日本の飛地とその類型化
*水野 勝成
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p. 174

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抄録

 国土地理院2万5千分1地形図(以下「地形図」)を眺めると、都道府県や市区町村の行政境界線付近にいわゆる飛地と呼ばれる断片的な領域がいくつか点在していることがわかる。この飛地(とびち)とは、「同一支配下に属する行政区域が地理的に連続せず、離れて他の行政区域に囲まれて存在する」(『地理学事典 改訂版』日本地誌研究所編、二宮書店、1989年)とされている。渡部(1990)は、この地形図にて飛地を所有する地方自治体として109町村を示したが、日本全国にどのような飛地が存在し、その形成理由や消滅理由等を総括した研究は少なかった。 そこで、インターネットGISの代表格である国土地理院「地形図閲覧システム」を活用し、地形図上に記載されている「行政区+飛地」(例、弘前市飛地)の地名表記を検索する。複数の地形図に同一の飛地が認識される場合があるため、各地形図を目視しながら確認することで、全国に232カ所の飛地が地形図に表記されていることが判明した。これらの飛地は鹿児島から青森まで日本全国に広く分布しているものの、北海道や愛知県にはみられず、他方、山形県、千葉県、新潟県、大阪府、鹿児島県には多くみられ、さらに、いくつかの自治体に集中している状況を明らかにした。 この232カ所の飛地情報を本研究のプラットホームとし、まず、史実資料などをもとに、これらの飛地の形成理由を調査した。これらを大まかに分類すると、江戸時代の知行地によるもの、新田開発等の人為的なもの、寺院をはじめとする宗教的なもの、隣接しない自治体の合併によるものの、4種類に類型化できる。これらの事由は単一に作用するものばかりではなく、複数の要因によるものも多い。飛地が多くみられた山形県、千葉県、新潟県、大阪府、鹿児島県における面積の小さな飛地は知行地によるものが主流であり、面積が大きく、その飛地内に学校などの公的設備が存在する場合の多くは、隣接しない地方自治体の合併によるものであった。飛地の境界線が幾何学的(例、長方形)は新田開発等の人為的なものである可能性が高いことも分かってきた。 この飛地の類型化をさらに正確なものにするため、飛地が認識された自治体へ調査票を送付し、歴史的背景を含めて、飛地の形成理由を現在調査中である。さらに、飛地の面積、人口、主要な建物、道路などの交通路、ゴミ回収をはじめとする住民サービスの状況等をGISなどの方法も併用して調査することも計画している。現在、いわゆる平成の大合併により多くの市町村合併が進行中である。多くの飛地がこの合併により消滅し、一方で、隣接しない地方自治体の合併によりさらに飛地が生成されるのではないかと考えられている。これを良い事例とし、飛地の生成・消滅事由を現実に即して類型しつつ、明らかにしたいと考える。【参考文献】長井 政太郎(1960):「飛地の問題」『人文地理』pp.21-31、21-1、人文地理学会渡部 斎(1985):「近世における飛地」『地理誌叢』pp.58-64、26-1/2、日本大学地理学会渡部 斎(1987):「地方行政境界に見られる飛地について ―広島県大竹市の場合―」『地理誌叢』pp.78-84、28-2、日本大学地理学会渡部 斎(1990):「地方行政境界にみられる飛地の現状」「道都大学紀要―教養部―」No.9、pp.45-54、道都大学

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