日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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教師教育の場における地理教育
*伊藤 裕康
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p. 178

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抄録

1 教育内容の問い直し総合的な学習の時間の創設、特色ある学校づくりの必要性の高まり等で、SBCD(学校を中心としたカリキュラム開発)が言われ、教員には従来になく教材開発力が求められている。「教材研究とは、『何を』・『どのような素材によって』・『いかに』教えるかを研究することであり」、「教材開発と言う以上、厳密には三要素全てのものに一貫した論理と説得力をもったデーターを必要とする」(竹下、1993)。地理学が教材開発において多くの貢献が出来うると思われるのが、まず「何を」教えるかを明らかにする「教育内容」研究であろう。だが、「『子どもの学びを主体とした授業』(例えば活動・体験を大胆に取り入れた授業)では、教育内容は不要になってしまうのだろうか」(森脇、2000)と、教育内容そのものの機能的危機が問題にされている。そこで、地理学が「教育内容」研究においてどんな役割をはたすのか、発表者の自分史(小学校・中学校教員経験)から考えてみたい(詳細は配布資料を参照)。「教育内容」と「教材」を「目的」と「手段」の関係で捉える授業では「一般的な科学の内容研究というよりは学習者の側からの科学の内容研究」(安井、1989)が求められている。地理学的手法を活用しつつ、子どもや生徒の論理も踏まえた教育内容の組み換えをする力が必要となってくる。一方、子どもの意欲・関心を大切にし、活動・体験を重視する授業では、「子どもの発言や活動を受け止め、意味を付与し、適切に関連づけるため」(森脇、2000)、つまり学習活動自体から教育内容を紡ぎ出す際の指針として地理学の素養が生きてくると考えたい。従って、真に実践的指導力をつけようと思うなら、学問としての地理学の学びこそは大切にしたいものである(特にフィールドワークは重視したい)。2 私の教師教育の場での地理教育―「やはり地理って楽しい」、「地理って意外に役立ちそう」と思えることを―発表者はかつて初等教育や幼児教育の教員をめざす女子学生に,地理学概論を講義していた。彼女らの地理のイメージは,地名物産の地理,覚える地理で,大変暗かった。とにかく“楽しい地理”にしたいと思い,高校までの受験地理と一味違った地理の授業を心がけた。物事を地理的な見方・考え方で見たり,旅行中に景観等を読むことができれば楽しい,地理は生活と意外に関係がある,と思える授業である。学生にとっては空き時間なしの1日の最後の授業であった。つまらない,意味を感じられない授業は,私語・居眠りの荒野と化す。そこで,「地理学や地理と名の付くものの有用性が」少しでも認知されるようにと思いつつ試みた発表者の地理学概論の授業の報告をする(詳細は配布資料を参照)。3 養成段階でしたいこと―教科専門科目担当教員と教科教育担当教員の連携・協力を―「(専門分野を研究する力と同時に、発表者補足)子ども研究の能力も要求される。が、これは『教科に関する科目』と『教職に関する科目』の並立的な学習を意味するものではない。教科教育の立場からいえば、これらの2種類の科目の学習・研究が『学習者の側からの科学の内容研究』という点に統一的に集約されることが大切であり、求められるのはこのような意味での科学の探求なのである。」(安井、1989)。ともすると、大学の授業を予定調和的に捉え、学生に総合化を任せていなかっただろうか。例えば、教科専門では教職志望の学生に地理のおもしろさを感じさせるとともに地理的見方・考え方の習得を図る授業を行い、教科教育法では地理的見方・考え方を活かした地理的・合理的意思決定を図る授業を構想させる授業を行う等してみたらどうであろうか。いずれにしても、教科専門科目担当教員と教科教育担当教員の連携・協力体制の構築を望むものである。

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