抄録
地理学に関わる技術は、長い歴史の中で発展してきたが、近年の進歩は目覚ましいものがある。特に地理情報システム(GIS)は、社会的な技術として広く普及しつつある。このような歴史的発展期にあたり、「研究基盤としての地理情報科学」ワーキンググループは、地理情報技術を地理学の深化に生かす方法を検討してきた。 まず技術要素別にみると、次のような課題がある。1)地理情報の取得技術 近年、この分野の技術の発展は目覚ましい。リモートセンシング(RS)、グローバルポジショニングシステム(GPS)、レーザ測定技術、モバイルGIS、ブルーツース、ICタグなどにより、より効率的でより大量の地理情報取得が可能になりつつある。特に、利用が普及しつつあるRSは、環境問題や自然災害に関わるデータ取得において有効であり、地理学で積極的に活用すべきであろう。 一方、地理学の研究に必要なデータが紙のままで多く埋もれていたり、また研究者の作成したデータが一回限りの利用で廃れたりしている。これらのデータを生かす技術は既にあるので、これらを生かす体制的な整備をすべきであろう。2)地理情報の管理技術 上記の技術により、大量の地理情報を取得することが可能になってきたが、しかし大量の地理情報も良く管理されていないと「ごみ」同然となってしまう。その管理にGISは有効であり、大いに活用すべきであろう。ただし3次元、4次元の地理情報管理技術については遅れている。とくに4次元地理情報の管理は、歴史的分析、リアルタイム的分析においてますます重要になり、時空間GISの開発に力を入れるべきであろう。現代のもう一つの大きな課題は、地理データの共有を技術的にいかに実現するかであろう。その試みは、東京大学空間情報科学研究センターの「空間データ基盤システム」や、千葉大学環境リモートセンシング研究センターのデータベースシステムで行われているが、今後、全国的にこのシステムを整備して行くべきであろう。3)地理情報の分析・総合技術 地理データの分析は、地理学の主要な部分である。多くの方法が開発され大きな蓄積を持っている。ただし大量の地理情報が取得できるようになってきた現在、手作業だけで分析が進めるのは困難になってきたので、GISを活用すべきであろう。しかし現在のGISが提供する地理学的分析は不十分であり、より高度な分析技術が必要である。例えば、高度な地理分析用ソフトウェアの開発や、時空間内挿といった新たな技術の開発を進める必要がある。 従来、地理学は分析に重きをおき、分析に基づく予測、予測に基づく対応や計画といった総合化の研究が不十分であった。今後はシミレーション技術、意思決定システムなどの技術を取り入れ、この部分の強化を図るべきであろう。4)地理情報の表示・伝達技術 地理情報の表示は、従来、地図学が担ってきたが、最近、地理情報の表示技術は重要性が増してきつつある。一つは、地理学的分析を進める過程で、分析結果表示からイメージを得えながらインターラクティブに分析を進める方法が重要になってきたことである。もう一つは、一般の人々に地理学の成果や地域実態を分かりやすく説明する社会的必要性が大きく増してきた点である。この必要性に地理情報技術は応える必要がある。特に、インターネットやモバイルを媒介とする状況対応・即時対応型、そして3次元、4次元表示ができる地理情報伝達技術を開発して行くべきであろう。 以上の各論の課題に加えて、一般的課題としては以下のことが挙げられる。・地理学の研究や教育(小中高校を含む)に、地理情報技術をより積極的に取り込むべきであろう。・取り込むにあたっては、地理学的応用と技術開発を密接に連携させて進めるべきであろう。・その連携のためには、地理学と地理情報技術に関わる研究分野の研究交流をはかるべきであろう。