日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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先史時代遺跡分布の時系列動態
移動コスト重心と関連指数Aによる遺跡間関係評価
*津村 宏臣
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p. 187

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抄録
はじめに “なぜ遺跡がそこにそのようにあるのか”この問題は、長く空間考古学や考古地理学の視座から議論されてきた。 考古学でいうセトルメントパターンとは、“線”や“放射状”など2次元的な展開のことを指すが、遺跡立地・分布に影響する人類の社会活動を2次元的な規準に還元する問題がある。ここではGISを導入して移動コスト重心分析(CCMC analysis:Tsumura 2003)を実施し、往時の集落間移動と集落立地との相関を、3次元的な規準によって検討する。また、歴史解釈として一般化するためには、3次元的な立地の相違を標準化して理解する必要がある。そこで2次元的な距離や形状の規準を移動コスト距離による関連指数A(A-index:Hodder.I and Okell.E 1978)で標準化し、集落配置の時系列動態をあわせて検討する。最後に、その両者の結果をあわせ、先史社会の空間的活動と文化との関係を歴史的に解釈する。 具体的には、青森県縄文時代遺跡を対象とする。1.対象地域の概要 三内丸山遺跡を中心とした青森・津軽平野には、縄文時代の遺跡として、草創期2、早期13、前期215、中期149、後期340、晩期194遺跡の、のべ約1000遺跡が登録されている。このほか、時期不詳の173遺跡がある。遺跡の少ない草創期・早期を除けば、ほとんどの遺跡が両平野と接する小起伏丘陵地や砂礫台地、砂丘列に立地し、全体として“線状”分布を呈している。三内丸山集落の盛衰は、こうした2次元的には均質な集落間関係のなかで起こった歴史事象である。2.移動コスト重心の抽出 上記の遺跡立地は、微視的には、時系列に沿ってより起伏の少ない場所を選地する傾向が強くなることが指摘されている(津村 2002)。これは先史人類の集落間移動や領域内での社会活動のしやすさと関係があり、各集落からアクセスしやすい場所が抽出できれば、これと集落配置との関係で、立地の社会的機能を探ることができる。各時期の遺跡からの移動コスト距離モデルをDEMから生成した勾配モデルを規準に作成し、これを同時存在の集落単位で重ね合わせ、各集落からアクセスしやすい場所を移動コスト重心として抽出した。3.関連指数Aの算出2.での集落間空間と集落立地との関係評価とあわせ、それぞれの時期での集落間関係を直接的に評価する方法として関連指数A(図1)を導入した。集落間の距離は移動コスト距離で計測し、3次元的な分布・配置の位相評価を試行した。また、集落間の社会的関係を評価するため、各遺跡を住居址数で3ランクに分類し、遺跡規模間での関係を評価した。4.まとめ 移動コスト重心の時系列動態では、縄文時代前・中期から後・晩期にかけて、重心が青森平野から津軽平野へと移行することが明らかとなった。また、後・晩期には、この重心と隣接する集落立地が特徴的に認められた。関連指数Aでは、前期終末_から_中期初頭に大規模遺跡を中心とした集落配置(Inter-rank)が顕著となり、その後後期にかけて同規模の遺跡がまとまる集落配置(Intra-rank)となることが明らかとなった。以上のような結果は、三内丸山遺跡の盛衰を評価する上でも興味深く、それが単純な自然環境決定論では説明できない事を示唆している。<参考文献>Hodder, I./Okell, E. 1978. An index for assessing the association between distributions of points in archaeology. Simulation studies in archaeology. Cambridge University Press. 他
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© 2003 公益社団法人 日本地理学会
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