日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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沿岸漁民による漁場の認知形態に関する研究
横須賀市長井地区の場合
*矢崎 真澄
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p. 44

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抄録
_I_ 問題の所在
近代地理学では従来,環境を所与のものとし,環境を客体として考えてきた.一方,近代地理学以前では,それぞれの地域の住民はそれぞれの世界観によって目の前の環境を読み取り,伝統的な生活様式を組み立ててきた.人間と環境とのかかわりにおいて,主体が環境をいかに認識するのかという側面は,これまであまり重視されることがなかったと言える.
ここでは,主体が環境をいかにとらえるかという側面を重視する人文主義的地理学(humanistic geography )の立場に立つ主体的環境論によって,沿岸漁民の伝統的漁場認知について考えたい.発表者は,これまで相模湾岸漁村とその主たる漁場となる相模灘およびその周辺海域を研究の対象地域としてきた.本発表では,文献資料と聞き取り調査に基づき,三浦半島西岸の長井地区沖における沿岸漁民による漁場の認知形態について考察したい.
_II_ 結果
(1)長井漁港は,1952年に第二種漁港の指定を受けた.長井沖には海底段丘がみられ,水深10m程の海底には岩石が露出し,堆積物がほとんどない.一方,水深10_から_25mの海底の大部分は砂地になっている.漁業条件に恵まれ,様々な漁業形態が沿岸海域でとられている.特に亀城礁周辺は,漁礁が突きだし多くの魚群が来遊する.伊豆七島や三陸への出漁もみられ,沿岸・沖合漁業者が混在している. 2000年の漁業経営体174,漁船数212隻(内,船外機118隻),漁獲量2578tである.水揚げされる魚種は,マイワシ,カタクチイワシ,サバ,ブリで,ヒジキなどの海藻類も多い.漁法は,大型定置網,刺網,サバたもすくい網とともに採貝,採藻による漁獲が全体の86.3%を占めている.また,ノリ,ワカメ,コンブの浅海養殖も行われている.
(2)長井沖において,70の漁礁を中心とする漁場を確認した(図1).水深5_から_20mの亀城礁周辺に多くの漁場が分布している.ヤマタテで利用される地名・地名と係わる漁場名が使用されている事例として,図1の9・21・22・25・40・64がある.22チョウショウジガケは,陸地にある長井寺とその手前に見える樹木との重なり具合を漁場の位置確定の目安としている.また,漁民の漁撈経験を示した事例として,4・25カジカケネがあげられる.こうした漁場の通称名(集落別の入会関係)の分析とともに,漁場の位置・大きさ・広さ・高さ・形状,漁業種類別の漁場使用の区別とその呼称,由来を含めた漁場の監理略歴,漁場の災害歴,磯焼け歴,漁場の主な付着海藻類,漁場に生息する主な磯魚,漁場における年間生産量などを調査項目として,大木根,井尻,仮屋ヶ崎,東,屋形,番場,新宿,漆山,荒井,長浜の各漁業集落における漁場の利用形態を調査した.その結果,集落間における独自の《棲み分け》現象をはじめ,明らかになった若干の認知形態を報告する.
参考資料
長井町漁業協同組合漁業研究部会連合会 2002.平成14年度横須賀市漁業活性化推進事業(磯根資源調査事業)長井沖磯根漁場図.神奈川県水産総合研究所.
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© 2003 公益社団法人 日本地理学会
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