抄録
本論文では,GISで用いられる各種の空間データにおいて,その位置情報に誤差が含まれている場合に,バッファリング操作の結果がどの程度信頼できるのか,精度を評価するための手法を提案する. 空間データの精度は,これまでイプシロン領域(Perkal, 1966)や確率密度関数(Shi, 1998),ファジー関数(Burrough and McDonnell, 1998)などの手法で表現されていたが,ここでは汎用性及び操作性の高い確率密度関数による表現形式を採用する.また,バッファリング結果の精度は,欠落(Error of omission)領域,即ち,本来はバッファ領域に含まれるはずであるのに含まれない領域が,本来のバッファ領域に占める割合の期待値(以下,欠落率)によって評価する.通常,この種の評価にはもう一つ,余剰(Error of commission)領域も用いられるが,期待値についてはこれらは同等であるので欠落領域のみを取り上げる. 空間オブジェクトとしては,まずは単一の点を取り上げる.点の正位置を原点とする座標系を取り,データ上の点位置の確率密度関数をf(x),バッファ半径をb,中心x,半径bの円領域をC(x,b)とおくと,欠落率の期待値はと表される.この値は一般的には解析的に表現することができないが,f(x)が特別な場合には近似表現を得ることが可能である.例えば,f(x)をC(0,r)内の一様分布と仮定すると,となり,欠落率の期待値は位置誤差にほぼ比例することが分かる.具体的には,誤差半径rがバッファ半径b の10%のときに平均約5%の欠落率となる. この評価方法は,単一の点だけではなく複数の点を含む点分布のバッファリング操作に対しても適用可能である.欠落率の期待値は同様の積分形式で表現され,一般的な解析的表現を得ることは難しいが,少なくとも数値積分による計算が可能である. 次に,同様の分析を単一の線分についても行う.即ち,ある線分の2端点の位置がそれぞれある確率密度関数に従って分布するときの,線分のバッファ領域の精度を評価する.この場合,変数の数が単一点の場合の2倍であり,欠落率の期待値は4重積分を含む式で与えられる.通常,多重積分の数値計算は計算量が大きく,モンテカルロ法に頼らざるを得ないことが多いが,ここでは積分方法を工夫することで,実用性のある計算方法を提案する. 具体的な手順は省略するが,点の場合と同様,線分の端点がいずれも正位置を中心とする同一半径rの円内における一様分布に独立に従うものと仮定すると,バッファ半径をbとして,欠落率の期待値はという,やはり誤差にほぼ比例する形で近似的に与えられる.誤差半径rがバッファ半径bの10%のときに平均約2%の欠落率であり,単一の点の場合と比べて欠落率はかなり小さくなる.なおここでは,点位置の誤差はバッファ半径及び線分長と比べて十分に小さいということを仮定しており,この仮定が成立しない場合には欠落率は上式よりも若干大きくなる可能性がある. この手法をさらに,複数の連結した線分に拡大することで,ポリゴンに対するバッファリング操作の精度を評価することも可能である.一般的な議論は難しいが,バッファ領域の精度はポリゴンの周長と面積に主として依存することは明らかであり,また線分に対する結果から類推すると,欠落率はやはり誤差の一次式で近似的に表されることが予想される.参考文献Burrough, P. A. and McDonnell, R. A. (1998): Principles of Geographical Information Systems. New York: Oxford University Press.Perkal, J. (1966): On the Length of Empirical Curves. Discussion Paper, 10, Ann Arbor Michigan Inter-University Community of Mathematical Geographers.Shi, W. (1998): A Generic Statistical Approach for Modelling Error of Geometric Features in GIS. International Journal of Geographical Information Science, 12, 131-143.