日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会秋季学術大会
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三重県・内部川扇状地における地下水流動系
*山本 隆之宮岡 邦任
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p. 67

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抄録
1.はじめに ある地域における地下水流動系を把握することは,その地域における適切な水利用や水資源の保全に非常に有益な情報を得ることになる.これまでにも様々な扇状地において,地下水流動系に関する研究は行われてきた.榧根・宮岡(1993)は国内の3つの扇状地を比較し,表面形態は同じでも内部構造は異なり,その差異により地下水循環が大きく規制される場合があることを示した.このような点から,同じ地形の地域であっても,それぞれの地域において地下水流動系の解明を重ねていくことが必要であると考えられる.そこで本研究では,三重県内部川扇状地を対象地域とし,その地下水流動系を明らかにすることを目的とする.2.対象地域と研究方法 対象地域は三重県鈴鹿市と四日市市の境界に沿って流れる内部川の両岸に広がる扇状地である(図1).内部川の北には鎌谷川,南には御幣川が位置し,それらの隣接した扇状地と重なるようにして合流扇状地を形成している(図2).また,特に左岸側は谷の浸食が激しく,開析扇状地でもある.地形面に関しては内部川左岸側に古期扇状地面が,右岸側には中期扇状地面が広がる.土地利用に関しては,扇央には広く茶畑が分布し,扇端や谷沿いには水田が分布している. 現地調査は2002年3月,7月,2003年1月に民家の浅井戸48地点,マンボ5地点,深井戸8地点,河川4地点,池3地点の合計68地点において気温,水温,電気伝導度,pH,RpH,水位,水深を測定し,化学分析用に200mlの採水を行った.3.結果と考察 扇状地面の等高線を接峰面的につなげて旧地形を復元してみると,右岸扇央に南北方向に不整合になる部分が現れた.そのことから,(1)現扇状地面はまず左岸の地形面が形成された.(2)その後に何らかの地殻変動が起こり,その上に右岸の地形面が形成された.(3)さらにその後,内部川の中流部を扇頂にして河川が流路を変え,右岸の扇央から扇端にかけての堆積物を掃流して,主に左岸を形成している地形面が現れた.以上のような段階を経た地形形成が推測された.また,その地形面の境界だと推定される不整合の部分による地下水流動系への影響も考えられる. 地下水位,電気伝導度,NO3-濃度の分布から検討した結果,内部川の右岸側では地下水の水質形成は,地形面の分布状況に強く影響を受けていることが示唆された. 図2に示したヘキサダイアグラムから右岸扇央部(不整合部分の西側)の地下水は,内部川の河川水より御幣川の河川水からの涵養の影響が大きいことが考えられる.また,不整合部分より東側では内部川の右岸扇央部を流動する地下水と内部川河川水の混合が考えられる.さらに,扇端の内部川に沿った場所では主に内部川河川水をから涵養された地下水が分布していることが示唆された. 以上のことから,本地域における地下水流動系は(1)右岸扇央部(不整合部分の西側)の地下水を形成する御幣川系,(2)不整合部分より東側の地域で御幣川系の地下水と内部川河川水の混合によって形成されていると推定される御幣川・内部川系,(3)扇端の内部川に沿って分布する内部川系,(4)扇状地左岸側を形成している,鎌谷川河川水が起源だと考えられる鎌谷川系,(5)右岸扇端部の地下水を形成し,溶存成分が他の地域より少ないことから,その主な涵養起源が降水だと考えられる流動系の5つが存在することが考えられた.参考文献榧根勇・宮岡邦任(1993):扇状地の内部構造に関する比較古水文学的研究,日本地理学会予稿集,44,206-207.
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© 2003 公益社団法人 日本地理学会
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