抄録
1 はじめに郊外地域における人口高齢化の進展ついては,1970年代からいくつかの仮説が提示されてきた.その一つである残留仮説を用いた説明によると,大都市圏の人口高齢化は郊外化の動きに沿う形で,都心地区から郊外地域へと,外延的に広がっていくと考えられている(石水 1981).同説によれば,郊外地域は,都心部に近い地区ほど人口高齢化が早くに進み,縁辺部に行くほど遅くなることになる.同様に都市ライフサイクル仮説による説明においても,基本的には市街地の発展時期にともない都心地区→インナーシティ→郊外地域へと人口高齢化の波が同心円状に広がるとされている(小長谷 2002).一方,1990年代に入ると,一部の郊外住宅地において,居住者の高齢化が顕在化を始める.世帯構成の変化や第二世代の動向から,予察的にではあるが,第二世代が独立した後に高齢者世帯を経て,住宅が空家になる現象が,郊外地域の縁辺部を中心に現れるとの見解が示された(角野 2000).ここでは,郊外地域の人口高齢化は,都心部に近い地区から縁辺部に向かうのではなく,郊外地域の縁辺部に虫食い状に現れる可能性が指摘できる.そのため,市町村レベルよりも小さな地区では,潜在的に人口高齢化がモザイク状に進んでいる可能性があり,場所によっては,他の地区よりも早くに,人口が高齢化する地区があると考えられる.以上を踏まえて,本発表は,将来推計を用いて,大都市圏郊外地域における,人口高齢化の差異を検証することを目的とする.2 調査概要大都市圏郊外地域の大部分は,都心部やインナーシティと比較して,人口高齢化が顕在化していない地域である.そのため,まず潜在的に人口高齢化が,他より進む地区の存在を確認するために,埼玉県川越市において,サンプル的に老年人口比率や開発年次が近い2つの地区を選び,現在の状況が続くと仮定して,コーホート変化率法を用いた将来推計を行なった.その後,大都市圏郊外地域を対象に,同将来推計を行う予定である.3調査結果の概要 郊外地域の人口高齢化は,第二世代にあたる20-30歳代人口の動向が深く関わることになる.今回対象とした埼玉県川越市の笠幡・砂の両地区はともに1960年代に開発され,老年人口比率も笠幡地区が14.8%であり,砂地区は14.1%(ともに2003年住民基本台帳より)と,見かけ上はほぼ同じような人口高齢化の状況にある.しかし,両地区の人口構成を時系列的に追うと違いが見て取れる.笠幡地区の第二世代にあたる20-30歳代人口の減少率は,砂地区の同人口の減少率より高いものであった.これは,砂地区の20-30歳代が転出していないか,同年齢層の住民が転入したためだと考えられる.そして,今後も現在の状況が続くと仮定した将来推計においても,笠幡地区は砂地区よりも早くに人口高齢化が進むと予測された.なお詳細については,発表当日に報告したい.参考文献石水照雄 1981.高齢人口化過程における大都市地域.坂田期雄編『大都市と大都市圏問題』142-159.中央法規出版.角野幸博 2000.『郊外の20世紀』.学芸出版社.小長谷一之 2002.大都市圏立地構造の再編と21世紀京阪神都市圏の将来像.小玉徹編『大都市圏再編への構想』.29-51.