日本地理学会発表要旨集
2003年度日本地理学会春季学術大会
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衛星観測に基づく北半球積雪変動の地域性
*松井 健一高橋 日出男
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p. 000008

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抄録

1. はじめに近年, 地球上の各地で積雪量の減少が指摘され, IPCC (1992) では北半球の積雪面積と北半球平均気温には高い負の相関関係があるとしている. しかし北半球の大陸を21地域に分けて各々の地域の積雪面積と北半球の積雪面積との関係を調べたRobinson and Frei (1995) は, 北半球の積雪面積との間に高い正の相関関係が認められる地域とともに, 無相関の地域や負の相関関係が認められる地域も数多く存在することを指摘している. そこで本研究では, 全球的な積雪変動と地球温暖化などの気候変動との関係を明らかにすることを目的とし, まず1966年から2001年までの北半球における積雪変動の地域性を衛星データに基づいて解析した.2. データと研究方法本研究ではアメリカ合衆国のNational Snow and Ice Data Centerから入手した, 衛星観測に基づくNorthern Hemisphere EASE-Grid Weekly Snow Cover and Sea Ice Extent Version 2に収録されている1966年10月から2001年6月までの北半球全体の25kmグリッド週平均積雪データを, 2°グリッド月平均積雪頻度データに加工して使用した. 地上観測データは観測点が中緯度の都市部に偏在し都市の影響を強く受けていると考えられるため, 本研究では衛星データを使用した.まず月ごとに毎年の積雪頻度とその標準偏差の分布を調べた. 次に月ごとに各グリッドの積雪頻度にPearsonの相関係数に基づく群平均法によるクラスタ分析を施した. なお, ある程度の広がりをもった複数のクラスタによりまとめられた10月から4月については, 月ごとに主成分分析を施し変動の地域性を調べた. さらに積雪頻度の季節変化を調べるために北半球全体と7つの経度帯における積雪頻度とその標準偏差を月ごとに緯度平均して調べた.3. 結果1) Robinson et al. (1993) が積雪面積をもとに春季の積雪減少が顕著であると指摘したのに対し, 各月の積雪頻度の変動をみると春季において積雪変動に経年変化は認められず, 7月や8月といった夏季に明瞭な減少傾向が認められた.2) 各月の積雪変動にクラスタ分析を施した結果, 1つの大きなクラスタがほとんどの積雪域を占める5月から9月と, ある程度の広がりをもった複数のクラスタにより積雪域の変動が説明される10月から4月 (図1) の2つの時期により分類された.3) 積雪変動の経年変化が認められる地域がある月とない月が季節に関係なく存在し, 経年変化している地域がある月では多くの積雪域で減少傾向を示し, ヒマラヤ山脈とチベット地域で特に顕著であった. これに対し, 北アメリカ大陸西部では増加傾向が認められる月が多かった (図2).4) 10月から4月にかけてヒマラヤ山脈の積雪頻度と北アメリカ大陸西岸の積雪頻度が逆傾向の変動をしていた. 特に12月から4月にかけてヒマラヤ山脈の積雪頻度はヒマラヤ山脈以外の大部分の積雪変動域の積雪頻度と逆傾向の変動をしており (図3), ヒマラヤ山脈の積雪変動は北半球全体の積雪変動と調和的ではなかった.5) 北半球全体と7つの経度帯における積雪頻度の標準偏差を月ごとに緯度平均して調べると, 北半球全体とユーラシア・北アメリカ両大陸東部の季節変化は類似していたが, この他の地域の季節変化とは類似していなかった. すなわち北半球平均の積雪の季節変化は両大陸東部の季節変化を大きく反映している可能性が考えられる.

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