抄録
1.はじめに わが国における現在の山地斜面については,斜面崩壊や土石流などの土砂移動現象が地形変化をもたらす主な要因であると考えられている.広島県西部の沿岸地域においても,侵食平坦面を取り巻く急斜面では,斜面崩壊が頻発し,風化物質の除去が盛んに行われている(門村,1972).調査地域の広島県大野町周辺では,1945年9月17日の枕崎台風の襲来によって,多くの斜面崩壊が発生し,これを起因とする大規模な土石流が多発した.そこで,1945年に斜面崩壊や土石流が発生した流域について,いくつかの地形計測を試み,流域ごとの地形特性と土砂移動現象との関係を検討する.2.広島県西部の地形特性(1)広島県西部の地形広島県西部の沿岸地域には,断片的に侵食平坦面が残存し,それらを取り巻いて急斜面が発達している.また,急斜面の下方には山麓緩斜面が広がっている.これらの地形面は,明瞭な遷急線および遷緩線によって境されており,地形的なコントラストがはっきりとみられる.調査地域の大部分は,広島型花崗岩によって占められている.侵食平坦面,山麓の緩傾斜地および丘陵性の起伏部では,風化帯が厚く形成されているが,侵食平坦面縁辺部では,一般に風化帯は薄い.(2)水系特性 調査地域には,NNE_-_SSWからNE_-_SWおよびN_-_Sの断層系が走っている(門村,1956).水系にもこの傾向が明瞭にあらわれている.これらの断層系を反映する谷は主に5_から_6次の谷で,調査地域内ではもっとも高次な谷にあたる.4次程度の流域については,水系のパターンに大きな違いはみられず,いずれも樹枝状のパターンを示している.また,ホートンの第1法則もおおむね成り立っているといえる.(3)面積高度比曲線 流域間の地形特性を比較するため,作成した水系図に基づいて,4次流域を解析単位とし,面積高度比曲線を描いた.調査地域内には,39の4次流域が存在する.面積高度比曲線は形態から3つのパターン(Type-a_から_c)に分類できる.39流域の比積分は0.37_から_0.67の間にあり,Type-aは0.5_から_0.7,Type-bは0.4_から_0.6,Type-cは0.4_から_0.5程度となる.Type-aは侵食平坦面が残存している地域,Type-bは沿岸の丘陵地,Type-cは侵食平坦面に乏しく,開析の進んだ地域に多くみられる.3.斜面崩壊および土石流の発生域 1947年米軍撮影の1/40,000空中写真を用いて,斜面崩壊および土石流の発生位置を抽出した.崩壊地の発生位置は作成した水系図の1次谷上流端(谷頭付近)にほぼ対応している.土石流のほとんどは,これらの崩壊を引き金として発生している.4.水系および面積高度比曲線と土砂移動現象の関係 侵食平坦面を取り巻く急斜面には1次谷が発達している.とくに侵食平坦面と急斜面とのコントラストが顕著に見られる,経小屋山周辺で著しい.この地域では,斜面崩壊が多発しており,大規模な土石流も発生している.土石流の多くは,3次谷から4次谷内で発生しており,それより高次の谷に流出することは少ない. 高度帯ごとの斜面崩壊発生数と面積高度比曲線を比較すると,曲線の上に凸の部分にあたる高度帯で崩壊が多発している.これらの部位で地形変化が進み,流域の地形特性がType-aからType-b,そしてType-cへと変化すると考えられる.文献門村 浩(1956):安芸西南部山地の地形.広島大学文学部卒業論文,未発表.門村 浩(1972):花崗岩山地における浸食と崩壊の一般特性.森林保全に関する基礎調査報告書,17-34.