日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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中国の梅雨季降水現象に関与するチベット高原東側下層における低温域の形成過程
*高橋 日出男
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p. 139

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抄録
◆はじめに:梅雨前線帯は初夏に現れる準定常的な前線帯であるが,それに対応する雲帯や降水帯は常に存在するわけでなく,活動が活発な時期と不活発な時期が認められる.高橋(1989)では,中国大陸上の梅雨前線降水域が,チベット高原東側下層に現れるメソαスケール低温域に対応してしばしば形成されていることを示した.低温域の出現には高原北-東方における中高緯度循環系との関連が示唆され(高橋 1991),Takahashi(2003)では高原北側を移動性のトラフが接近・通過する際に,高原東側に出現する低温域の構造や非地衡風的な風系に伴うシアラインなどを事例解析から提示した.しかし,これらの解析を通して高原東側下層に出現する低温域の具体的な形成過程については明確にできていない. 本解析では,高原東側における低温域の形成過程を明らかにすることを目的とし,低温域(平均場に対する気温負偏差域)の出現位置により抽出・分類した事例について,大気の熱・水蒸気収支に関するapparent heat source(Q1)とapparent moisture sink(Q2)を算出し,空気の加熱・冷却過程を解析した.◆資料と方法:対象期間は1990-1995年の6年間であり,低温域出現の季節性を把握するために5-8月を通して解析を行った.高層資料については1.875゜グリッドの気象庁全球客観解析データを用い,降水量については観測報デコードデータを用いた(いずれも気象業務支援センターより提供).なお,解析には00UTCおよび12UTCの1日2回のデータを用いている. 高原北-東側の大陸上における850hPa面気温偏差(11日間移動平均値からの偏差)分布に因子分析を施し,バリマックス回転後の因子負荷量の分布と因子得点時系列間のラグ相関によって気温負偏差域の移動を類型化した.高原東_から_北東側(110゜E付近)の40゜N以南に因子負荷量の極大が現れる第5因子と第10因子について,因子得点が-2以下の場合を取り上げて合成図を作成すると,前者(Type A:61事例)は35゜N付近に,後者(Type B:48事例)は40゜N付近に気温負偏差の中心がある.事例の当該日時(00または12UTC)を基準(0day)として,1日ないし0.5日間隔の合成図解析によって温度場・高度場などの時間変化を解析した.低温域(気温負偏差域)の形成ついては,キーエリアを設定しQ1とQ2の解析(式1,2)を行った.なお,Q1は,正値が熱源,負値が冷源であることを示す.Q2は,正値がその領域で水蒸気が消費(凝結)されていること,負値は水蒸気の供給源(蒸発)となっていることを表す. Q1      (式1) Q2      (式2)◆結果:図1と図2は,それぞれType AとType Bについて平均したQ1(実線),Q2(破線)および鉛直流ωの鉛直分布であり,0day (下)と-1day(上)について示してある.ここで,AreaIとIII(左)は低温域,AreaIIと_IV_(右)は低温域の南側(Type A)あるいは東南東側(Type B)の多降水域にあたる.0dayにおいては,両タイプとも多降水域(AreaII,IV)ではQ1<0,Q2<0であり,上昇流(ω<0)に伴う水蒸気の凝結による加熱が認められる.低温域(AreaI,III)では,対流圏中下層に下降流(ω>0)が存在し,そこではQ1<0,Q2<0となっており,蒸発に伴って大気が冷却されている.このような状態は,Type Aでは-2dayから認められるが,Type Bでは -1dayにAreaIII(0dayの低温域)において上昇流に伴う水蒸気の凝結による大きい加熱が認められる.Type AとType Bの低温域の形成は,いずれも下降流に伴う雲粒・雨滴からの蒸発が関与している点で共通するが,それに至るプロセスには差異がある.高度場や鉛直流分布の時間推移によれば,Type Bについてはトラフの通過後(トラフ後面)の下降流が関与していると考えられる.Type Aについては,高原東側における大気中層の西風強化に対応した二次的な南北循環として,低温域に関与する下降流およびその南側における降水域の上昇流が発生している可能性がある.なお,Type Aにおける擾乱の空間スケールは,東進しつつ総観規模擾乱に発達するType Bの擾乱と比べて小さい.これは,擾乱や低温域(気温負偏差域)の出現位置が,高原北縁に沿う平均場の傾圧帯(Type B)か,その南側(Type A)かに関係していると考えられる.
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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