抄録
<B>_I_ はじめに</B>土壌劣化とは物理的,化学的,生物的過程によって生じる土壌の生産性の低下または不毛化現象である。タクリマカン沙漠の南縁地域は,現在飛沙と塩による土壌劣化が深刻化している地域の一つである。本稿は,オアシス土壌とその周辺土壌の特性を解析・比較することにより、土壌劣化の実態とメカニズムを明らかにすることを試みたものである。<B>_II_ 研究地域および方法</B>研究地域は,タクリマカン沙漠南縁地域のチラオアシス,およびその周辺地域に設定した。<BR>研究方法としては,土壌試料を採取し,有機物の成分と含量, C/N値,陽イオン交換容量,土壌の粒度組成、粘土鉱物, CaCO<SUB>3</SUB>,塩分含量,透水性,保水性,温度拡散率などを分析した。同時に,地表水と地下水および雨水試料を採取し,イオン濃度とECなどを分析した。また,長期間にわたって現地調査を実施し,気温,地温,地下水位および土壌水分の長期変化を観測した。<B>_III_ 結果および考察</B>タクリマカン砂漠南縁地域では,飛砂による土壌劣化(砂の沙漠化)が深刻であるとされる例が多い(相馬1996)。本研究では,衛星写真と土地利用図および統計データに基づいて現地調査を行い,1949年以来、チラオアシスとその周辺部における飛砂による沙漠化面積は4,913haに達していることを推定できた。これは,ホータン地区全域における沙漠化面積の約4分の1を占める。チラオアシスの卓越風向はWN方向であるため、飛沙災害によって生産性が低下した土壌のほとんどが地下水位の深い西部と北西部に集中している。オアシス西部のトーパ村の数十箇所で砂丘が畑に侵入している。これは,大量の地下水が灌漑に使われてきたため,地下水位の低下が進み,植生の衰退と飛砂災害が拡大したことによるものである。この結果から,オアシス外縁土壌の安定性が脅威を受けていると断定できる。また,オアシス東部の比較的平坦な固定砂丘地では砂に埋められた暗色の腐植物質層を持つ複合土壌断面が生成している。<BR>しかし,この地域における土壌劣化は飛沙によるものだけではない。表層土壌の環境変化の典型的な例である塩類集積化はこの地域においてもう一つの重大な問題となっている。本研究で実施した分析の結果から,チラオアシスにおける17基の灌漑用井戸水のSAR値は 2.0<SAR<6.5の範囲に,EC値は1.0mS/cm<EC<2.25mS/cmの範囲に集中することが判明した。また,河川水と雨水の分析結果も多量の可溶性塩分が含まれていることを示した。このような塩分濃度の高い水を灌漑水として使われてきたため,1949年以来,塩類化した土壌の面積は4,581haにも上っていた。チラオアシスの東部と東北部は比較的低く,地下水位が浅いため(2m以内)、砂質な土性でも表層へ塩類が集積している。これは,オアシス近辺の平地に作られたダムや旧式の不適切な灌漑行為によって地下水位が上昇したためである。これに伴い,土壌の塩類化と湿地化が進み,オアシス内部土壌の安定性が崩れている。<BR>植物の吸収機能と落枝落葉の分解も塩類化を促進するもう一つの要因である。チラオアシスにおける表層土壌の塩による劣化は,胡楊などの栽培植物と野生植物の体内に含んでいる塩分が落枝、落葉の形で土壌に入り,これらの有機物の分解、無機化によって生起していることを明らかにした。<B>参考文献</B>相馬秀廣(1996):タクリマカン沙漠における沙漠化,「砂漠研究」5:117_-_129.
