抄録
1.はじめに 本研究の目的は,1980年代後半以降のアメリカ・カリフォルニア州のオレンジ産地の変動を,わが国のオレンジ輸入の動向と絡めて考察することである。 わが国はアメリカ産の生鮮オレンジの極めて重要な輸出相手国であるが,その輸入量は1980年代の輸入枠拡大と1991年以降の自由化を通じて急増してきたものの,1995年以降は一転して急減してきた。このような変化は,アメリカの日本向け生鮮オレンジのほぼすべてを産出しているカリフォルニア州の生産現場にどのような影響を及ぼしているのであろうか。本報告では,アメリカ農務省の統計をもとにその変化の概要を説明する。2.1985年以降のカリフォルニア州でのオレンジ生産 図1は,1985年以降のカリフォルニア州のオレンジ栽培面積と日本への輸出量を示したものである。これによると,オレンジ栽培は1990年代半ばまでは大きく伸びたがその後は停滞し,1999年以降はバレンシア種を中心に減少が顕著になっている。 この動きは,日本への輸出が1990年代半ばにかけて増加し,その後減少していることと相関関係があるように思われる。しかし,図2で輸出量全体の推移についてみた場合,近年の日本への輸出減は韓国・中国への輸出増である程度埋められており,生鮮オレンジの輸出依存度も1996年以降は30%台前半を維持しており,大きな変化はみられない。したがって,日本向け輸出の動向はその拡大局面においてはカリフォルニア産地の拡大に寄与したものの,減少局面においては産地の縮小にそれほど深刻な影響を及ぼしているとは考えられない。 近年のオレンジ,特にバレンシア種の減産の要因としては,アメリカでのシトラスの消費嗜好の変化の影響が大きい。アメリカでは,1990年代後半以降オレンジの消費が減退する一方で,より甘く皮が剥きやすいタンジェリン系シトラスの消費が伸びており,その販売単価はネーブルの1.5倍,バレンシアの1.9倍と高い水準を維持している。カリフォルニアではこのような動きに合わせて,オレンジではネーブルの,他のシトラスではサツマやクレメンタインの作付を増加させているのである。 しかし,タンジェリン系のシトラスはもっぱらアメリカ国内向けに販売されており,日本をはじめとする輸出先の開拓は大きくは進んでいない。また,南アメリカからの輸入増によるアメリカ国内での競合も懸念されている。したがって,これらのシトラスがオレンジ・グレープフルーツに次ぐ第3のシトラスに成長するかは不透明であり,今後もオレンジの輸出拡大に対する期待は大きいものと思われる。