抄録
1.はじめに
近年、水収支や物質循環の観点から沿岸域における海洋への地下水流出の重要性が指摘されている。しかし、取り扱いの困難さから定量化に関する過去の研究例にも大きなばらつきがみられる。また、海洋へ流出する地下水には正味の淡水の地下水流出だけでなく海水の再循環水が含まれており、その評価は不可欠である。つまり、再循環水を含め、海洋へ流出する地下水に関して、その実態は未だ良く分かっておらず、個々の地点における詳細な検討の積み重ねが必要であるといえる。そこで本研究では、降水量の異なる地域での潮汐が引き起こす海水の再循環に注目し、実際の観測によってその詳細をとらえることを目的とした。
2.研究地域及び方法
研究地域は瀬戸内海に位置する広島県豊田郡瀬戸田町(生口島)と広島県佐伯郡宮島町室浜(宮島)の沿岸部とした。背後の流域の年降水量はそれぞれ約1100mmと1600mm、起伏比は0.24と0.26となっており宮島のほうが背後の地下水ポテンシャルが高いことが予想される。海岸部は大潮の干潮時には沖に向かって100mほど地表が露出する遠浅の地形となっている。また、瀬戸内海は日本でも有数の潮位変動幅が大きい地域で、大潮の時には干満の差が4m近くにまで達する。
方法は潮間帯にいくつか設置したピエゾメーターによって地下水流動を推定し、同時に採水を行うことで地下水中の海水寄与率を求めた。この観測を2時間間隔で行うことで潮汐に伴う再循環水の挙動をとらえた。