日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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中国内蒙古自治区における草地の劣化と農業生産の変容
*関根 良平, ソド スチン, 小金澤 孝昭
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p. 165

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抄録
 黄河流域に位置する内蒙古自治区での土壌流出・沙漠化は,日本でも「黄砂」として直接的にその影響を被っている.中国政府はその対策として,「退耕還林(草)」政策を打ち出した.これは転換手当や穀物の支給と引き換えに耕地を森林や草地に戻そうとするものであり,主に内陸部の特別市・省・自治区を対象として2001年から本格的に実施されている.また、「退耕還林(草)」政策以外にも、放牧本報告では,中国北西部における耕種農業の外延部であり,放牧業地帯との境界すなわち草地境界に位置し,農地の劣化が著しい内蒙古自治区の農村を事例とし,土壌劣化,表土流出,沙漠化の現状,そこでの土地利用,農業経営の実態,さらに2001年より本格開始された「退耕還林(草)」政策の実態と農業経営との関係を明らかにし,これら政策に対する地域的対応形態と内在する問題点について検討した.対象としたのは,自治区の首都である呼和浩特の北に位置し,放牧業地帯との境界に位置するフフホト市武川県大豆舗郷および上禿亥郷,黄河流域のオルドス高原に位置し,毛烏素沙漠が広がるなど沙漠化がより進行している鄂尓多斯市达拉特旗の農村である.
草地境界に位置する内蒙古自治区における農業生産は,防風対策としての植林や等高線耕作,有機肥料の使用など地力維持の方策をとりながら,井戸の掘削や農薬の多投など,脆弱な環境に強い負荷をかけつつ成立している.同時に,武川県のように農業生産のみで1万元程度の収入を得て相対的に高い生活水準に達している地域から,达拉特旗のように自給的な農業生産の成立すら危うい地域まで存在し,条件不利地内部の格差がきわめて大きい.「退耕還林(草)」政策は両地域ともほぼ同じ内容で実施されており,そこからはこの政策が単なる環境保護対策という性格だけでなく,耕作不適な条件不利地の農民に植林をつうじて直接所得の保障を行う構造調整政策という側面,いまなおかなりの数に上る貧困層に対する所得政策という側面をあわせもっていることが指摘できる.しかし武川県のような地域では,「退耕還林(草)」政策による耕地の減少に対して,農民は相対的に高水準にある農業収入をできるだけ維持するために,農地の生産力をより高める方向に行動し,結果としてより大きな環境負荷をかける可能性が皆無とはいえない.「退耕還林(草)」政策は,実施に際しての技術的な問題点をもつと同時に,その可否はそうした農民行動の如何によって左右されるといえる。
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