抄録
1.はじめに 瀬戸内沿岸地域では、近年赤潮の発生の1つとなる富栄養化が問題になっている。しかしながら、河川を通じて陸域から海域への栄養塩の流出過程はまだ十分に定量化されてない。特に瀬戸内流域では降雨イベント時の栄養塩の流出量が平水時に比べて1オーダー以上多いこと(小野寺ら、2003)から、洪水時のフラックスを明らかにすることは重要である。 また、瀬戸内沿岸地域では温暖少雨の気候なため、山火事が発生しやすく、山火事が発生した地域では大きな降雨イベントにより、陸域から土砂が流出し懸濁物質を発生させ海域へと流出している。よって、雨季において集中的な降雨による懸濁物質の定量化を行うことは重要である。 本研究では、雨季による降雨イベント時において河川へと流出する懸濁物質及び溶存物質のフラックスを明らかにすることを目的とする。特にプランクトンの栄養分となる溶存有機炭素・溶存窒素に注目して定量化した。2.研究地域及び方法試験流域は、広島県豊田郡瀬戸田町(生口島)の小河川流域である。基盤地質は主に花崗岩である。流域源流部は急勾配な山地河川となっており、中流部以降には扇状地が形成されている。源流部は、2000年の山火事の影響で植生密度が低下しており、また、その直下が高速道路の建設工事が行われている。また扇央から扇端がみられる中流から下流部にかけては果樹園と住宅地が混在している。流域の河口付近に水路型の堰を設置して、水位計により水位を自記記録し、水位_-_流量曲線を作成して流量に換算した。調査期間は2003年5月_から_2004年6月である。降雨時にはオートサンプラーを用いて河川水を採取した。採水した試料水は実験室に持ち帰り、5.0μmのメンブレンフィルターを用い、吸引ろ過を行い、浮遊物質の重量を測定した。また、吸引ろ過した試料水は全有機体炭素計を用いて、溶存有機炭素(DOC)と全窒素(DN)の分析を行った。3.結果と考察降雨イベント時における比流量と懸濁物質のフラックスの変化において比流量の増加と共に懸濁物質のフラックスも増加した。比流量は降雨強度に依存し、降雨強度が強くなると道路建設工事を行っている撹乱地域や山火事地域の土壌をより深く浸食することを確認した。また雨季に集中して多くの懸濁物質が河川を通じ海域に流出していることが分かった。 降雨イベント時の比流量と懸濁物質の濃度の変化を示した。今回の結果では比流量と懸濁物質の濃度はあまり相関がなかった。